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2019年の文芸界を振り返る 上田岳弘さん、辻村深月さん、小野正嗣さんの「私の3点」

上田岳弘 小説家

  • 東山彰良「猿を焼く」(群像2020年1月号)……(1)
  • 砂川文次「戦場のレビヤタン」(文芸春秋)……(2)
  • 宮内悠介「偶然の聖地」(講談社)……(3)

 (1)現代のリアルな田舎町描写と強いストーリーライン、文学性を備えた傑作。(2)「戦争」は時代とともに形を変え、人間を養分にして横たわる。(3)プログラムと言葉の二つの領域で経験を積んだ著者による仮想世界(メタフィクション)は、世界の秘密を解き明かす冒険のようだ。

辻村深月 小説家

  • 小野不由美『白銀(しろがね)の墟(おか) 玄(くろ)の月』(新潮文庫)……(1)
  • 横山秀夫『ノースライト』(新潮社)……(2)
  • 呉勝浩『スワン』(KADOKAWA)……(3)

 十八年ぶりの最新刊で世の中が沸いた十二国記は、厳しくも人の想(おも)いの強さが迫る圧巻の面白さ。横山さんが描く謎の美しさと熱い展開に魅せられて涙し、本格ミステリを愛する新進気鋭の呉さんが新作に持ち込んだ地方性と社会性に息を呑(の)みました。

小野正嗣 小説家・早稲田大教授

  • ギュスターヴ・フローベール『ブヴァールとペキュシェ』(菅谷憲興訳、作品社)……(1)
  • サミュエル・ベケット『モロイ』(宇野邦一訳、河出書房新社)……(2)
  • エドゥアール・グリッサン『第四世紀』(管啓次郎訳、インスクリプト)……(3)

 己を疑うことを知る優れた知性が、地に這(は)いつくばるようにして書いた美しくも笑える世界文学の最高傑作の新訳〈(1)と(2)〉と、カリブ海が生んだ世界的な知の巨人の代表作〈(3)〉が、それぞれこの人しかいないという素晴らしい訳者によって読めることの幸福。

*番号は順位ではありません=朝日新聞2019年12月18日掲載

朝日新聞文芸担当記者による回顧記事はこちら▷