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みき つきみさんの絵本「どんぶら どんぶら 七福神」 大きな声で読んだら、きっといいことがあるよ

文:坂田未希子、写真:北原千恵美

「アンクル トリス」で知られる柳原良平さんとの共作

――「どんぶら どんぶら」宝船に乗った七福神が、福を届けに船出する。心地よい語り口と幸福感あふれる神様のイラストがかわいらしい『どんぶら どんぶら 七福神』(こぐま社)は、お正月に親子で楽しみたい一冊だ。コピーライターでもある、みき つきみさんが本作で絵本作家としてデビューしたのは、ひとつの新聞広告がきっかけだった。

 イラストレーターの故・柳原良平さん(※)のイラストと僕の文章が入った広告を、1年間連載しました。家と家族をテーマにしたもので、「雲の上の家」や「丸い家」など、家族を包む家というものをいろいろな言葉と絵で表現したものです。とても面白かったので絵本にしたいなと思って、柳原さんが絵本を出している「こぐま社」に持ち込んだのがきっかけです。残念ながら絵本にはなりませんでしたが、編集の方に何か書いてみますかと言われて。いくつか書きましたが、なかなか形にならなかったところに、この絵本のお話をいただきました。広告界の大先輩である柳原さんとまたお仕事することができて、とてもうれしかったです。

※ 柳原良平=イラストレーター、画家。サントリーのキャラクター「アンクル トリス」の考案をはじめ、宣伝美術で活躍。絵本作品も多い。2015年逝去。

『どんぶら どんぶら 七福神』(こぐま社)より

――『どんぶら どんぶら 七福神』は、子どもの頃から七福神が好きだった柳原さんが、ぜひ絵本にしたいと企画したもの。ところが、みきさんは七福神のことをほとんど知らなかったという。

 毘沙門天か韋駄天かもわからないくらい七福神のことを何も知らなくて。季節性があるものなので、編集の方に最初の文章案を1週間で書いてくれと言われたんですが、さすがに無理だと思って2週間に延ばしてもらって、図書館で調べたりしながら書きました。最初に提案したタイトルは「しちふくじんのたからぶね」「わっはっはのしちふくじん」「どんぶらどんぶらしちふくじん」の3つ、本文は4パターン作りました。絵本の仕事は初めてで不安だったので、数があると選べて喜んでもらえるかなと思ったのと、時間がなかったので早く決めるためにもパターンがあった方がいいかなと思って。そこから何度も直しながら完成させました。

――「どんぶら どんぶら なみわけて どんぶら どんぶら 宝船」。リズミカルな文章は、声を出しながら作っていった。

 絵本の作り方は、最初に「書いてみますか」と言われた時から勉強していました。絵本は親が子どもに読んであげるものというのがベースにあるので、音読を意識して書いたのは教科書通りですね。自分で声に出しながら作りました。絵本だけでなく、調子がいいものを書きたい時には、決まって「鉄腕アトム」「ひょっこりひょうたん島」「狼少年ケン」の3曲が頭に鳴り響くので、それも参考になったのかなと思います。この絵本は、七福神に聞こえるように大きな声で読んでほしいですね。きっと、いいことがあると思いますよ。

――「ひとつ ひときわ えがおの 恵比寿さま」「ふたつ ふっくり ほっこり 大黒天」と、七福神が数え歌になって登場するのも楽しい。

 神様が7人なので、数え歌にしたら面白いかなと。ずっと広告の仕事をしてきたので、サービス精神を盛り込みたいと思うところがあって、読んでいる人にいろいろ楽しんでもらえるようにと考えました。恵比寿さんから書き始めて、最初は行数もリズムも自由なので書きたいことをそのまま書けてよかったのですが、後半になったら行数が合わなくなったりして苦労しました。寿老人と福禄寿は似ているのでかき分けも難しかったですね。

――恵比寿、大黒天、毘沙門天、弁財天、布袋、福禄寿、寿老人。日本では福をもたらす七福神として古くから親しまれてきたが、どんな神様なのか知らないことも多い。

 七福神の中で、日本出身の神様は恵比寿さんだけです。インドの神様も中国の神様もいるし、宗教も仏教、ヒンドゥー教、道教、神道もある。多様性ですね。日本は本来そういうことにおおらかな国だと思うんです。子どもの頃は楽しく読んでもらえればいいですが、大きくなった時にそういうこともわかるといいかなと。絵本を通して知らないことを知る楽しさを感じてもらえるとうれしいです。

 出版された後に、京都の七福神巡りをしました。柳原さんがあとがきに書かれていた赤山禅院の福禄寿のおみくじもほしくて。引いたら大吉が出たんです。絵本を出せたのも七福神さまのおかげだなと思っています。

――本作出版の翌年には『十二支のしんねんかい』を、2015年には『あのほし なんのほし』を出版。いずれもイラストは柳原さんが担当した。

 2冊については僕の方から企画しました。柳原さんは、いつもこちらが想像しているものと違った絵を描いてくださるので、驚きもあって、とても面白かったです。印象的だったのは『十二支のしんねんかい』の「亥」のページに描かれた猪と新幹線が競争する絵。新幹線が画面右に向かって走っているのですが、新幹線も自動車と同じで後ろのライトが赤いので、進行方向が一目でわかると教えてもらいました。やっぱり、いろんなことを知っていなければ、いい絵は描けないんだと実感しました。柳原さんのように「大人の品格がありながら子ども向けの絵」を描ける方はなかなかいないと思うので、もう新しい作品が見られないのは残念です。

絵本は人生の広告、生きることは楽しいと伝えたい

――子どもの頃から文章を書くのが好きで、「何か書きたい」と思っていたという、みきさん。

 国語のテストで「何文字以内で書きなさい」という問題があると、ぴったりの文字数で書くのが気持ちよくて、ピタってできることに快感を感じていました。ラブレターもいっぱい書いていましたね。一度、谷川俊太郎さんの詩を引用して書いたら振られて、一時期、谷川俊太郎さんを嫌いになったこともあります(笑)。本も好きで、ずっと本を読んでいる子どもでした。ドリトル先生とかシートン動物記とか、椋鳩十とか、動物ものが好きでしたね。あとは伝記を読んで、その度にその人になりたいと思っていました。

――コピーライターを志望したのは、中学2年生の時。美術でポスターを作る授業があり、コピーライターの仕事を知ったことがきっかけだった。

 あ、コレだ!と思って。そこからずっと変わらなかったですね。コピーライターになるには心理学が必要だって何かに書いてあって、心理学を学びに金沢大学に進みましたが、あまり役に立ちませんでしたね(笑)。

――その後、コピーライター養成講座で学び、プロダクションを経て広告代理店へ。数々の広告制作に携わり、2011年には、ACジャパンの臨時キャンペーンCM「サッカー篇」でギャラクシー賞(選奨)を受賞した。

 東日本大震災の直後に作ったCMです。海外で活躍するサッカー選手のメッセージがニュースで流れていたのですが、一番届けたい被災地の人に伝わっていないと気づき、CMにして届けようと考えてのものです。状況が状況だったので国際電話の声を録音したりして3日で作りました。これがコマーシャルの仕事としてはほぼ最後になりましたが、この仕事ができてよかったなと思っています。

――これからも絵本を作っていきたい。そこには、広告の仕事で培われてきたこだわりもある。

 話したいこと、聞いてほしいこと、読んでほしいことがあって書いています。テーマは多様性と寛容。「死なないでね」「人生楽しいよ」というのをベースにしています。他の絵本作家さんはどうやっているのかわかりませんが、僕はこれまで広告という仕事をしてきたので、絵本を作るときも「七福神の広告をする」「十二支の広告をする」というふうに考えるところがあります。だから、人生の広告というか、生きることはこんなに楽しいんだっていうことを広告したいですね。