デジタルの時代でも本屋が魅力的な理由
秋吉:嶋さんは日本中の書店をまわっていらっしゃいますよね。面白い取り組みをしている書店のお話からご紹介していただければと思います。
嶋:それ始めると1時間全部終わっちゃうけど、いいのかな(笑)。
秋吉:私が途中で止めます(笑)。
嶋:僕は2012年に本屋B&Bを作ったんですけど、その前の年に「BRUTUS」の西田善太編集長から「本屋好き」という特集で「ゲストエディター的に仕事に入ってくれ」と言われたんです。そこで非常に光栄な立場をやらせてもらって、全国の色々な書店を取材させていただきました。
最初は皆、自分の理想の本屋さんを作りたくて本屋さんになる。でも毎日のパターン配本の波の中で暮らしていると、ほとんど感覚が麻痺して金太郎飴書店になってしまう。送られてくる本を売っていくだけの作業になっていく。そういう人たちが多い中でも頑張って色んなイベントをやっていたり、本を取次や版元に注文しても来るか分からない環境の中でも「この本を売りたい」という思いでやっている人たちの姿を見て、心打たれたんです。それで自分も本屋をやろうと思った。ターミナル駅の大型書店じゃなくて、普通に学校や会社がある自分が生活している街の中で気軽に寄れる本屋があるといいなと思って。B&Bのコンセプトは「これからの街の本屋」にしました。
「今はネット書店があるからリアルな本屋では本を買わないだろう」と多くの人が思っています。確かにネット書店は便利ですよね。欲しい本を注文したら翌日には来る。でも僕はリアルの本屋を7年間運営してきて、なんとか黒字経営させていただいているんです。
それはネット書店とリアル書店は、明確に役割が違うということだと思うんですよ。ネット書店はすでに買いたい本が決まっている人にとっては最高の買い場です。村上春樹の本を検索すれば『風の歌を聴け』から『騎士団長殺し』まで全部出てくる。「マダガスカル」について調べたいと思えば、「マダガスカル」に関する本がドバーッと出てくる。目的さえ決まっていれば、何でも選べるわけじゃないですか。
では、リアルな本屋の良さとは何なのか。秋吉さんはどういう本屋がいい本屋だと思います?
秋吉:私は体験も買える所が好きですね。
嶋:長瀧さんはどうでしょう?
長瀧:行っちゃう本屋は、催事が面白い。結構雑貨とか買わされていますね。
嶋:お二人とも体験ってことをあげてますよね。それもリアル書店の大事な魅力の一つです。で、僕は買うつもりのなかった本を買っちゃう本屋がいい本屋だと思うんですよ。入店する前は欲しいと分からなかった本です。人はすでに言語化されて顕在化されている欲望に対して応えるサービスはあまり好きにならないんですよ。でも、何か欲しいけれど言語化できない時に「実はこれが欲しかったでしょう」と言ってくれる人に凄く愛を感じるんですよね。まさに、それがリアル書店で起きることです。
確かにネット書店は便利です。でもブランディングの観点から考えると「コンビニエンス」と「ラブ」は同一じゃないんですよ。「便利だな」と思うことと、そこにラブが生まれるかは別の話なんですよ。
「この本屋に来ると絶対俺の好きな本がある。やばくない?この本屋」みたいに、気づかなかった自分の好奇心を発見できる、そういう体験に人はドキドキして「この本屋好きです」と「ラブ」が生まれるんですよね。これはコンテンツも一緒です。人は自分が言語化できなかった潜在願望を明確にしてくれるものが好きなんです。雑誌でも「何この雑誌!私の思っていることが書いてある!」と思う人がいっぱいいるでしょ。でもあなた、そんなこと昨日まで全然言ってないでしょうってことが多い。
それがリアル書店の存在意義で、提供できる価値だと思っています。デジタルに擦り寄るビジネスをしようとしている人たちもいっぱいいるんですけど、あえて真逆に行ったほうがいいんじゃないかなと僕は思うんですよね。
秋吉:吉原にカストリ書房さんがありますね。体験と言ったのは、カストリさんに行くと、吉原という背景や歴史があるじゃないですか。そこで恋愛の本を買ったりすると、それ自体が体験になる。
嶋:地産地消、大好きですよ。例えば、京都の丸善。京都に行って知人を丸善に連れていくと、「梶井基次郎の『檸檬』を買った方がいいよ」と言ったり。ほんとは梶井が檸檬を置いた店は前の前の丸善の店で、今の河原町のBAL(バル)の丸善じゃないんですけど。なんか気分が上がるでしょ。
城崎(兵庫)の本屋で『城の崎にて』を買ったりとか。秋田の角館に行った時には、新潮社の創業者の佐藤家がある街なので、本屋で新潮文庫の第一巻の川端康成の『雪国』を買ったりする。外で雪が降っている角館で読む『雪国』は格別です。そういう地産地消消費、凄く好きですね。
花屋や自転車屋で本を売っていてもいい
秋吉:僕はレコードでDJをやるんですけど、今アメリカはレコードの売り上げがCDを超えると言われていて。でも、レコードはレコード屋さんではなく、セレクトショップで売っている。皆音楽を買いに行っているというより、レコードというライフスタイルを買っているところがある。本屋さんはその点どうですか?
嶋:かもめブックス(東京・神楽坂)の柳下恭平さんは「ことりつぎ」という少部数の取次を進めようとしていて、本はもう本屋で買わなくていいのではないかと言う提案をされてますよね。花屋さんで花に関する本が、自転車屋さんで自転車に関する本が売っていればいい。これは流通・取次の手続きが今のパターンだと非常に難しいんですけど、僕はすごく魅力的なチャレンジだと思っていて。
本というものが多品種少量生産であることが魅力でもあるのですが、流通を複雑にさせてますよね。返品可能なところとか。だから流通のシステムや再販価格維持の仕組みも含めて変えていかないと、いろんな販売の仕組みが作れない。。かもめブックスの挑戦はぜひ応援したいですよね。
秋吉:スーパーのお肉のコーナーにお肉の調理の本があってもいいような気がしますね。
嶋:本屋B&Bとしては、本屋でないけれど本を売りたいという所に、B&Bの出張所を小さく設ける協力をしています。金沢のギャラリーで開催している展覧会に関連する本を売っていたりとか、代々木八幡のパン屋さんでパンに関する本を売ってたりとか。そういう「ことりつぎ」的なことをやってたりします。でも凄い大変なんですよ。一個一個、凄くカスタマイズして編集していかないといけない。でも、そういう風に本に出会える体験は幸せですよね。
秋吉:忘れないし、買おうという気になりますよね。