天皇陛下の代替わり行事が続いた昨年、皇族のみやびな装束に注目が集まった。そんななかで奈良・平安以降の朝廷や公家社会で用いられた装束を解説した高額書籍が異例の売れゆきに。きっかけは、ツイッターで話題になったことだった。
百科事典で知られる平凡社が2018年に刊行した『有職装束大全』。有職故実(ゆうそくこじつ)を研究する八條忠基(ただもと)さんが著した。写真や図版をオールカラーでふんだんに用いた全320ページで、値段は7480円(税込み)。図書館などの需要を見込んで、初版は3千部だった。
ところが、昨年9月に「ヤベェ本を買ったぞ(中略)絵描き字書き立体屋問わず全創作者にオススメ」という投稿があり、約3万件のリツイートと約6万件の「いいね」が押されるほど拡散。全国の書店から問い合わせが平凡社に押し寄せた。同社の下中順平さんは「代替わりで装束が注目されていたことも関係していると思う。数百部あった在庫が一瞬でなくなり、びっくりした」と話す。
この後、10月22日に行われた「即位礼正殿(せいでん)の儀」で、天皇陛下のみが身につける「黄櫨染御袍(こうろぜんのごほう)」という束帯が話題となった後に重版が決まるなどして、昨年末には4刷7500部に達した。
著者の八條さんは「ビジュアルを重視したので、漫画家やイラストレーターの方らにも活用してもらえればうれしい」と語る。
八條さんは東京都内で、束帯や十二単(ひとえ)などの着付けを教えている。「装束は千年以上にわたって受け継がれている。日本文化をもっと知りたいという人の役に立てれば」と話す。(宮田裕介)=朝日新聞2020年1月8日掲載