綾野さんとのタイプの違いがうまく噛み合っていた
――まずは「影裏」での演技で、中国で行われた「第2回海南島国際映画祭」の最優秀俳優賞を受賞されたとのこと、おめでとうございます。
ありがとうございます。まさか賞をいただけるとは思っていなかったので、本当に驚きました。
――松田さん演じる日浅は、突然消えたり現れたり、つかみどころのない不思議な人でした。彼をどんな人間だと捉えましたか?
一言で言うのは難しいんですが、自由な人であるのは間違いないですよね。髪が長くて、風来坊みたいな風貌で、釣りが好きだからジャケット着たまま仕事行って、自由そのものじゃないですか。本当はずっと釣りをして、酒を飲んで、なんにも縛られないで楽しく生きていたいだけの人なんじゃないかなと思うけど、それだけじゃ生きていけない。それで違う仕事を始めてから髪も服装も雰囲気もガラッと変わって、そこから見える彼の心情の変化ってなんだろうなっていうのは見てる方へ投げかけてると思いますし、どっちが日浅の本質かっていうことも問いかけてると思います。
あと、「語られる日浅」から役作りをしてないかもしれないですね。そこで役作りをすると、ちょっとわからなくなってしまうなと思って。日浅はミステリアスな反面、本当はすごいシンプルというか単純というか、本能のままなのかなって。だから日浅がしゃべってる台詞とかで、役を作った感じなんです。
――綾野さん演じる今野と松田さん演じる日浅は、家飲みでリラックスしたかと思えば夜釣りの時にはぎこちなさもあって、その感情の揺れ動きがいいなと思いました。初共演の綾野さんとどう息を合わせていきましたか?
ロケ地の岩手では2人の時間が結構長かったので、飲みに行ったり撮影中に一緒にご飯食べたりしましたね。やっぱり盛岡冷麺が有名なので、昼から焼肉屋に行ったりしました。
現場では、僕はマイペースにやらせていただいているので、タイプは違うかもしれないですね。でも、そこがすごいうまい具合に噛み合っていたように思います。
最後のシーンを撮った時、虚無感に襲われた
――「人間見るときは影の一番濃いとこを見るんだよ」「俺たち屍の上に立ってんだ」という台詞が印象的で。セクシュアリティ、震災、親子を描きながら、人間の孤独と自然への畏敬も感じました。どの部分に一番共鳴しましたか。
やっぱり2人の何気ない会話のやり取りを見てて、普通に面白いなと思いましたね。日浅に対してはなにか裏があるんじゃないか、どんな人間なのか、わかりづらくしてるのもある。そこから、この人なんなんだろうとか、なにか楽しそうだなとか、そういう興味や感情すべてをさらってしまうことが起きて。だから僕も演じる時に、日浅に対していろんな気持ちを持って、こういう人なのかなって探りながらやっていたんですが、最後のシーンを撮った時に虚無感に襲われました。日浅はただ釣りが好きな、なんでもない一人の男だったんじゃないかな、と。そこにはいろんな気持ちの動きがあったはずなのに、すごくシンプルに、釣りが好きな人だったんだなと感じたんです。
――今野と日浅ふたりで古本屋に入っていくシーンもありましたね。本のサイトということで、読書とのかかわり方を教えてください。
今は携帯で無料で読めるものがたくさんあるので、ついつい読んでしまいますね。でも、「もの」として手に取って読んだほうがやっぱりいいなとも思います。
――改めて「影裏」について、観客に伝えたいことがあれば。伏線回収がきれいなわかりやすい映画がウケるなかにあって、こうしたわかりにくさ、わからないものはわからないままでいいという映画は貴重だと感じました。
シンプルに、たくさんの方に観て頂けたら嬉しいですね。「影裏」は純文学の映画化なので、いわゆる「エンターテインメント」ではないかもしれないけど、ようは「エンターテインメント」のあり方をどう捉えるかだと思うんです。いまは細かくカテゴライズされてるけど、映画自体が広い意味で「エンターテインメント」ですし、観てくれた方の心を動かす作品であったらと思っています。
自分で「こうあるべき」って決めないでいたい
――デビュー作の「御法度」で初めて龍平さんを見た時、「こんなに美しい同世代がいるのか」と衝撃でした。あれから20年、演じることについて心持ちはどう変わっていきましたか? 演技の限界は際限ないものでいまだにわからないなど、どういう感覚が強いですか?
難しい質問ですね(笑)。20年もやってきたんだなというところもあります。映画に関わる方々や、作品に育てられたんだなぁと思います。それは演じている役も、こうしてインタビューで映画について自分の気持ちを伝えることも全部含めて、そう思います。
――最後に、これから挑戦したいことや夢があれば教えてください。
役者を続けていくうえで、違うアプローチの仕方が色々見えてきたら面白いなと思います。あとは、音楽をやったり、写真を撮ったり、なにか描いてみたり、ほかの表現でも楽しみたいなっていう気持ちもありますね。あまり自分で「こうするべき、こうあるべき」と、決めつけないでいたいなと思います。