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「室町の覇者 足利義満」書評 「俺様キャラ」で栄華空間を演出

評者: 出口治明 / 朝⽇新聞掲載:2020年02月29日
室町の覇者足利義満 朝廷と幕府はいかに統一されたか (ちくま新書) 著者:桃崎有一郎 出版社:筑摩書房 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784480072795
発売⽇: 2020/01/06
サイズ: 18cm/350p

室町の覇者 足利義満 朝廷と幕府はいかに統一されたか [著]桃崎有一郎

 中世に、武家でありながら太政大臣に昇った2人の魅力的な政治家がいた。平清盛と足利義満である。この2人には共通点が多い。交易を重視し、先例にとらわれず、朝廷を含めて京都の外から支配し(北山第=てい=は都ではない)、さらに光源氏を意識した(?)等々。本書は、規格外の「俺様キャラ」、義満の真実に挑んだ意欲作である。
 室町幕府の土台を作ったのは足利尊氏の弟、直義で、鎌倉幕府は滅んだのではなく足利氏主導で再起動された、というのが著者の見立てだ。相次ぐ大名の反乱は幕府との交渉手段に過ぎず、南朝が大義名分として利用された。義満は南朝を消すために朝廷の掌握に乗り出した。前摂政の二条良基(よしもと)が義満に朝廷の儀礼を熱心に指導し、その追従のおかげで良基の一統は室町時代の摂関をほぼ独占した。義満は昇進と所領を与奪する力を駆使して朝廷を支配した。大名家に対しては、大名の庶子を主体に将軍直臣団を整備して分裂を煽った。そして土岐氏や山名氏、大内氏ら有力守護大名の力をそぎ、孤立した南朝は吸収合併された。
 義満は幕府の長である将軍から脱皮して、朝廷代表を兼ねる幕府の長である「室町殿」になった。さらに朝廷と幕府を外から超越的に支配する「北山殿」に脱皮した。しかし、「実験的演劇のワンマン演出家」義満が急死した後、北山殿という地位は捨てられ、子の義持や義教は「室町殿」として足利政権全盛期の日本に君臨したのである。
 前著『武士の起源を解きあかす』でもそうだったが著者は大胆な仮説を提示する。例えば、義満が没するまでの10年間政治の中心だった北山第は、金閣寺が名残を残す「仮想現実空間」だった、冗談好みの義満が「狂言(冗談)を極限まで研ぎ澄ます実験」として能や狂言を誕生させた等々。類書と異なるのは確かな史料を根拠にしていること。これは作家ではなく歴史家の優れた仕事である。
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 ももさき・ゆういちろう 1978年生まれ。高千穂大教授(古代・中世史)。著書に『平安京はいらなかった』など。