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異なる視点を得て、心の旅を楽しむ ローソン代表取締役社長・竹増貞信さんの本棚

経営の神様の至言に触れ部下への接し方を反省

 子どもの頃から本が好きでした。初めは漫画や図鑑が目当てで近所の書店に通い始めたのですが、「赤本」(過去入試問題集)の棚を眺めて、大学はたくさんあるんだなあと思ったりするのも楽しくて。幼い自分にはまだ読めない本も、背表紙を見るだけで違う世界に行けるようなワクワク感がありました。

 影響を受けた本はいろいろありますが、小説の筆頭は、『流転の海』。第1部の刊行から36年を経て、2018年完結しました。主人公の松坂熊吾は、戦前は敏腕実業家として鳴らし、戦後、大阪で再起を図ります。そして50歳にして初めて息子を授かり、妻子とともに波乱の後半生を生き抜く。最初に第1部を読んだのは30代前半、私自身も第1子を授かった頃だったので、熊吾の堂々たる父親ぶりに感心しました。熊吾は欠点の多い人物ですが、決して人をだまさず、裏切られても恨みを引きずらず、信頼してきた者に全人格をかけて向き合います。おまけに何があっても「たいしたことはありゃあせん」と動じない。確かにそういう気構えでいた方が、何事にも鷹揚に生きられる気がします。心に刺さったのは、「自尊心よりも大切なものを持って生きなきゃあいけん」という熊吾の言葉。自尊心よりも大切なものとは何か、自らに問う機会にもなりました。最終巻は、熊吾は生涯かけてかけがえのない家族と仲間を作り上げたのだとしみじみ思える結末でした。

 松下幸之助さんの『人を活かす経営』と出合ったのも30歳前後。それまでビジネス書に興味がなかったのですが、部下ができてチームを率いる難しさに悩み、手に取りました。部下の仕事ぶりに歯がゆさを感じ、その苛立ちが態度にも出てしまっていたのです。そんな私の目を覚ましてくれたのがこの本でした。「人はダイヤモンドの原石のようなもので、磨き方いかん、カットの仕方いかんで、さまざまに異なる輝きを放つ」「人それぞれの素質が生きるような配慮が必要である」。こうした至言に触れ、反省しました。それからは部下の長所を見るように努め、すると気持ちが楽になって、前向きに仕事ができるようになりました。

日本のアナログ文化にAI時代の可能性を見る

 好きな小説をもう1作品、『蒼穹の昴』です。中国の最下層の家に生まれ、馬糞拾いで家計を助けていた主人公・春児は、家族のために、自らの道を切り開くために、宦官になる道を選びます。まさに自尊心を超えた決断です。春児の兄貴分で家柄のいい秀才・文秀も、官僚として国の未来を切り開いていく。生まれも役職も正反対の二人ですが、どちらも私心のない行いで人から愛され、愛される故にしばしば窮地を救われます。そうした生き方に触れる中で、若い頃に上司から「迷ったら、フォー・ザ・カンパニーだ」と言われたことを思い出しました。会社のために行動すれば、私心のない判断ができるという教えだったのだと思います。

 『アナログの逆襲』は、デジタルネイティブ世代の間でレコードや紙のノートなどのアナログ製品が支持されている現象に注目しています。私たちの世代にとってはパソコンやスマホが目新しい刺激でしたが、デジタルネイティブ世代にとってはアナログなモノに目新しさがあり、想像力が刺激されるようです。それを読んでなんだかホッとしました。デジタルネイティブ世代がアナログの強みを取り込むことで、私たちの世代が思いもよらないデジタルとアナログの融合物が創造されるかも、という期待も持ちました。

 アナログといえば、昔の日本人は、五・七・五・七・七の「みそひともじ(31字)」に森羅万象への思いをこめていました。『万葉集』にも様々な「みそひともじ」が収められています。いっそこの時代までさかのぼってアナログを追求すると、より人間の能力が研ぎすまされるのでは……。そんなことを考えながら読んだのが、『AIvs.教科書が読めない子どもたち』です。著者は、東大合格を目指すAI(人工知能)「東ロボくん」の開発に携わった新井紀子さん。AIは高度な読解や柔軟な判断が不得意で、そこに人間の強みが発揮できると書いています。また、中高生の読解力の低下をAI時代の課題として挙げています。グローバル化が進む中では、英語的な論理展開を身につけることも大切です。加えてAIに代替されない能力を鍛える上では、「みそひともじ」のような日本のアナログ文化が案外ヒントになるような気がします。

 読書は自分と異なる視点を与えてくれます。そして心の旅をさせてくれます。読むことで何かがすぐに解決するわけではありませんが、仕事や私生活の節目にふと、本にあった言葉に背中を押されることがある。特に若い時の読書体験は貴重だと実感しているので、子どもたちにもすすめています。(談)

竹増貞信さんの経営論

「私たちは『みんなと暮らすマチ』を幸せにします。」という企業理念の実現に向け、商品、サービスの拡充や店舗のIT化を進めているローソン。2016年度から2018年度まで、「1000日全員実行プロジェクト」に取り組みました。

社会の変化に応じて売り場の改善を推進

 ローソンは1975年に大阪府豊中市に1号店を開店。以後全国に店舗を増やし、現在国内の店舗数は14,721店(2019年8月末現在)。少子高齢化や女性の社会進出といった社会の変化に応じて商品やサービスを進化させ、店舗の形態も、健康志向の「ナチュラルローソン」や、OTC医薬品の販売を強化した「ヘルスケアローソン」、薬・介護・栄養の相談ができる「ケアローソン」など、地域のニーズに合わせて展開。「私たちは“みんなと暮らすマチ”を幸せにします。」という企業理念のもと、緊急時や災害時も頼れる「マチのインフラ」としての役割を果たし続けている。

 竹増貞信社長はローソンの親会社である三菱商事で長く食肉事業に携わり、米国勤務や広報なども経験。ローソン入社以前は小林健社長(当時)の業務秘書を務めていた。

 「ある日突然、小林社長から『ローソンに行ってほしい』と言われましてね。大変驚きましたが、三菱商事とローソンの連携強化を図り、ローソンの企業価値を一層高めることが自分の役割ではないかと考え、入社を決めました」

  2014年に副社長として入社し、2016年に社長に就任。同年度から開始した「1000日全員実行プロジェクト」をけん引した。少子高齢化による人手不足やコンビニ業界の再編、テクノロジーの進化などに対応するためのプロジェクトだ。

 「最新のIT(情報技術)の導入、多様化する人財に対応できる店舗オペレーションの開発、食品や日用品のラインアップの拡充などに注力しています。「1000日」と銘打ち、2018年過度でいったん終了しましたが、こうした取り組みは1000日で終わるわけでは決してありません。キャッシュレス決済などテクノロジーの進化、人手不足、お客様のニーズの変化、どれもプロジェクト発足当時の予想を超えるスピードで進んでいます。フランチャイズ加盟店のオーナーの皆さんはあらゆる変化に対応しなければなりません。店舗経営の相談窓口を設置するなど、日々改善を図っています」

一人ひとりが輝く職場環境へ 

 社会課題の解決にも力を入れる。この夏は、消費期限の近い対象商品を買うと食品ロスの削減と貧困家庭の子ども支援につながる取り組み「アナザーチョイス」を愛媛県と沖縄県の店舗で実施した。

 同社は新感覚のスイーツなど、商品企画力に定評がある。竹増社長も企画に参加し積極的にアイデアを出す。

 「商品だけでなく、例えば、淹れたてコーヒーのスリーブに本の抜粋を印刷し、『〜賞受賞作品』といった宣伝文や、本を注文できるサイトのQRコードもつけて、デジタルとアナログを融合したサービスが提供できないか、などと既存の枠にとらわれないサービスの可能性を探っています」

 竹増社長のモットーは、現場の声に耳を傾けること。

 「1万人超の社員、そして各店で働く皆さんが存分に能力を発揮し、自分は輝いていると実感できるような職場環境を作ることが私の務め。これまで築き上げた土台に改善を積み重ね、全員一丸で企業理念の実現を目指します」

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