2020年現在、国内にいわゆる「マンガ賞」がどれだけあるかご存じだろうか。
出版社が優秀な作品を選ぶ賞や、新聞社が文化的功績をたたえる賞。ほかにも書店員が年間の人気作を推奨したり、読者が次にヒットしそうな新作を発掘したりと、運営の主体や目的は様々だが、軽く2桁は存在する。
受賞作は世間の注目度が高く、読者は購入の目安に、業界にとっては売り上げの追い風になる。
そんな中、一般的な知名度こそあまりないが、近年活況を呈しているのが、地方自治体が主催するマンガコンテストだ。長い歴史を持つものもあるが、今回は比較的新しい動向について紹介したい。
まずは「まんが王国」として知られる自治体から二つ。
「まんが甲子園」で有名な高知県では、18年から「世界まんがセンバツ」を開催している。まんが甲子園が高校生の団体戦だとすれば、こちらは国境と世代を超えた個人戦にあたる。これまで培ってきた業界団体とのコラボレーションが強みだ。
境港市の水木しげるロードや北栄町の名探偵コナンのコナン通りに観光客が押し寄せる鳥取県。12年から「まんが王国とっとり国際マンガコンテスト」を実施している。今回もタイの作家による大賞をはじめ、プロ顔負けの秀作が並んだ。両県ともに国際色を掲げており「王国」の実績と気概を感じる。
次に紹介するのは、郷土史や観光地にスポットをあてることで地域振興を目的としたコンテストだ。
戦国もので大河ドラマの舞台にもなる滋賀県長浜市では、16年に「長浜ものがたり大賞」を開始。こちらはマンガと小説の二本立てで、作品制作の予習に役立つロケハンツアーや受賞作の舞台化など、コンテストの事前事後に力を入れているのが特徴だ。残念ながら19年度で終了となったが、文化事業としての足跡と継続の難しさを知ってもらうべく、あえてここに取り上げる。
一方、「古事記」の国生み神話で知られる淡路島の兵庫県淡路市では、19年に「全国くにうみ漫画ワールドカップ」を創設した。淡路島日本遺産と記紀・万葉集の部門があり、伝承や史実に基づきつつも創造性豊かな作品が集まった。地元の魅力を全国へアピールするコンテンツとして、今後の展開が楽しみである。
もう一つ、自治体との連携を通じてNPO法人が主催するケースとして、「かごしま漫画クロデミー賞」を紹介する。
アカデミー賞ならぬクロデミー賞とは、黒酢や黒豚、黒麴(こうじ)など「黒」を冠した鹿児島の特産品の多さを示している。13年に始まり、地元中小企業の支援と活性化に特化した稀有(けう)な賞である。それだけに郷土愛あふれる投稿が多く、県外からもディープな内容が寄せられる。今やこの賞自体が鹿児島の新しい「黒」文化を担いつつある。
ほかにも事例はあるが、こうした全国的な広がりを眺めると、それぞれの受賞作を集めた祭典でも企画したくなってくる。種目は1コマ、4コマ、ストーリーマンガに分かれ、審査はネットでの人気投票。在宅参加につき、このご時世でも開催は問題なし。テーマは「地方からマンガで日本を元気にする」でどうだろう。
ぜひ家でゆっくり読みながら、各自治体の底力と地域の魅力、そしてマンガの表現力を感じていただきたい。=朝日新聞2020年4月28日掲載