1. HOME
  2. コラム
  3. みる
  4. 「美し、をかし、和名由来の江戸鳥図鑑」 羽の一枚一枚までもびっしり描き込み

「美し、をかし、和名由来の江戸鳥図鑑」 羽の一枚一枚までもびっしり描き込み

 鳥の写真を撮るのは難しい。でも、日本に写真技術がまだ存在しなかった時代、これほど精密な鳥の絵を描くほうがよっぽど難しかったに違いない。

 本書に登場する鳥たちは、1840年ごろに編まれた『梅園禽譜』から抜粋されている。デッサンが狂っていたり、色が派手だったり、くちばしの付け根から謎の産毛が飛び出していたり。誇張なのか、絵の具の限界なのか、写真とは微妙に異なる野鳥たちの姿は、どこか架空の生きもののようでもある。

 近寄ることはもちろん、町で暮らしていたら見かけることすらない鳥たちの、小さな羽の一枚一枚までもがびっしりと丁寧に描き込まれている。枝に止まる様子だけでなく、羽ばたく姿までもが描かれていることには驚く。江戸時代であれば、描くために野鳥を捕獲することも許されたのだろうか。ここに描かれている鳥を順に探し出して、写真を撮る旅がしてみたくなる。=朝日新聞2020年5月16日掲載