白尾元理「月面フォトアトラス」 リアルに迫ってくる鮮明な写真

どこから撮ったのか。答えは簡単だ。地球からだ。著者が、望遠鏡で、地上から、撮影した。写真を撮った。
宇宙船に乗って撮ったように見える。月面に近づきつつあるようにも思える。カメラの性能が向上し、デジタル技術を駆使することで、ここまで鮮明に見えるようになったわけだ。1987年の『図説・月面ガイド』(佐藤昌三氏との共著)ではたどり着けなかった世界。肩書に「写真家」とあるのが重要だ。著者はこれまで世界各地の地形、火山などを撮影してきた。ただ、月には行けない。行けないからこそ、その思いも尽きることがないだろう。写真家はカメラを空へ向け続ける。
ある時は月面を影が覆い、ある時は光り輝く。細くなったり、太ったり、月は表情を変える。いや、表情を変えているように見えるのは、ここに私たちがいるから。こっちもまた、同じ宇宙空間に浮かんでいるからだ。
何度もめくりながら、最高な味わい方を見つけた。本書を床に置き、開いて、立ったまま垂直に眺める。すると、すごくリアルに迫ってくる!下に置いてこそ、輝き出す写真集なんて、あまりない。
ちなみに図版はウサギの足もとあたり。真ん中くらいにシュレーター谷がある。溶岩が長期間流れた跡だという。クレーターから放射状に出ている光条(こうじょう)は、宇宙風化によってやがて目立たなくなっていくそうだ。多くの写真から、歴史があるのは地球だけじゃないと思い知る。=朝日新聞2025年4月5日掲載