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鷹野隆大ほか〈執筆〉 東京都写真美術館〈編〉「鷹野隆大 カスババ この日常を生きのびるために」 鑑賞者に身体について考えさせる

鷹野隆大さんは63年生まれの写真家、アーティスト。セクシュアリティーや「影」を被写体としたテーマに取り組む。個展は東京都写真美術館で6月8日まで。写真は「2019.12.31.P.#02(距離)」 ©Ryudai Takano, Courtesy of Yumiko Chiba Associates

 カスババとは、「滓(カス)のような場所(バ)の複数形」を意味する著者の造語で、写真家である鷹野さんが好んで被写体とする対象のことでもある。モロッコのカスバのようでも、ババロアのようでもあるこのユニークな言葉は、会うたびにご本人から受けるミステリアスな印象とシンクロする。

 鷹野さんが撮影したカスババの写真は滓どころか、かなり美しいのが気になる。しかし、ページを繰るうち、確かに彼は「滓のような場所」と言ったが、それを写した写真も滓だとは言っていなかったと気づく。そして、わたしの好きな写真はまさにカスババ的なものだったことを思い出す。

 鷹野さんの写真は、鑑賞者に身体について考えさせる。わたしたちの身体がいかに強固にジェンダー化されているか、そして表現のなかで裸のある部分だけを覆い隠すこと(を強いられること)がいかに政治的に、わたしたちの身体に対する印象をコントロールし、裸体を性の文脈のみに閉じ込めてしまいうるのか、ということを。

 身体は「私」そのものであると同時に、「私」が生き、活動する場でもある。その意味では人物写真にもカスババは当てはまる。現在、東京都写真美術館で開催中の大規模な写真展のカタログとして制作された本書は、さまざまな時代の鷹野さんの仕事の記録として、また作品を解説する論考集として宝物のような一冊だ。=朝日新聞2025年5月3日掲載