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モー娘。OG・工藤遥さん初主演映画「のぼる小寺さん」インタビュー 常にボルタリングのことを考えながら役作り

文:永井美帆 写真:篠塚ようこ

腹筋、握力…ジムで鍛え続けた

――初の主演映画ですが、話を聞いた時はどう思いましたか?

 夢みたいで、何度も聞き返しました。2017年にモーニング娘。を卒業して、女優として活動してきましたが、私が主演をやらせてもらえるなんて、ずっと先の話だと思っていましたから。ボルダリングの練習が始まったあたりから、「本当に映画を撮るんだ」と実感が湧いてきて、撮影が終わり、公開が近付いてきた今、ようやく確信が持てるようになりました。

 新型コロナウイルスの影響で、公開が1カ月延びてしまいましたが、この前、もともとの公開予定日だった6月5日に「今日から始まってたんだな」って、作品についていろいろ振り返ってみたんです。そうやって、一度自分の中で模擬公開日を迎えたから、公開初日は余裕を持って迎えられそうです。これで、超テンパっていたら笑っちゃいますけどね。

ヘアメイク:市川良子(吉野事務所) スタイリスト:鈴江英夫(H)

――撮影前に約3カ月間、ボルダリングの特訓を受けたそうですね。

 もともとスポーツは好きな方だし、練習を始めみると、ビギナーズラックもありつつ、ある程度までは登れたんですよ。でも、そこからの伸び悩みが大変でしたね。インストラクターの先生に、「とにかく数をこなすこと」と言われていたので、週2、3回はジムに通って。別の仕事で地方にいる時も、時間が出来たら自分でジムを探して、マネジャーさんに付き合ってもらいながら練習していました。

 ボルダリングって、腕の力で登っているように見えるじゃないですか。でも、実際は指と腹筋を使うんです。だから、腹筋のトレーニングをして、空いた時間があればハンドグリップで握力を鍛えていました。映画に小寺さんが教室でハンドクリップを使うシーンが出てくるんですけど、あれは実際に私が使っていたものなんです。この作品はボルダリングが出来ないことには話にならないので、撮影に入るまでは常にボルダリングのことだけを考えて過ごして、それが小寺さんを演じるための準備期間にもなったと思います。

映画「のぼる小寺さん」から Ⓒ2020「のぼる小寺さん」製作委員会 Ⓒ珈琲/講談社

「飾りじゃないのよ涙は」脳内で流しながら

――小寺さんを演じるにあたって、原作漫画も読みましたか?

 この映画って、実写でもあり、オリジナルでもあるような気がしています。ビジュアルにしても、漫画の中の小寺さんは金髪だけど、映画では茶髪だし。脚本を読んだり、古厩(智之)監督と話したりしながら、実写とオリジナルのギリギリのラインを攻めていくのが面白いんだろうなって。だから、漫画で描かれている小寺さんをそのまま演じるっていうことはしませんでした。

 といっても、小寺さんの性格だったり、ボルダリングの動きだったり、漫画からはたくさんのヒントをもらいました。例えば、小寺さんって本当に視野が狭いんですよね。目の前の壁以外、何も見えていない。だから、クラスメートに声を掛けられても、気づくまでに人の10倍、20倍の時間がかかるんです。

――工藤さんは頭の回転が速く、ハキハキとお話しされるので、小寺さんとは逆のタイプですよね。

 全然違いますね。私は口数も多いし、かなり早口なので。役作りをするにあたって、監督から「中森明菜さんの『飾りじゃないのよ涙は』を頭の中で流して」って言われたんです。最初は意味が分からなかったんですけど、わざわざ電話をしてまで伝えてくれたので「きっと何かあるはず!」と思い、歌詞を覚えたり、動画を見たりして、撮影中、私の頭の中にはずっと「飾りじゃないのよ涙は」が流れていました。そのお陰で、話しかけられてから返事をするまでに自然とタイムラグが生まれて、監督には良いアドバイスを頂きましたね。

桜庭一樹の小説はかっこいい表現がいっぱい

――工藤さんの周りに、小寺さんみたいなタイプの人はいますか?

 一番近いと思うのが、2コ下の弟ですね。めちゃくちゃアニメオタクなんですよ。あるアニメ作品が好きで、それにまつわる知識とグッズの量は誰にも負けないと思います。昔から自分の好きなものに対する執着心がすごくて、それ以外の余計な情報が入ってこないんです。だから、役作りをするにあたって、「小寺さんの気持ちが理解できるかもしれない」と弟との会話を増やしました。弟の部屋に入り浸って、「何でこれが好きなの?」って聞くと、それに対して200個くらいの答えが返ってくるんですよ。私もゲームだったり、漫画だったり、好きなものはいろいろあるんですけど、どちらかと言えば広く、浅くっていうタイプ。弟ほどの熱量で何かを語れるわけではないので、姉ながら感心しましたし、小寺さんのことも素直に尊敬しています。

――漫画や小説なども読みますか?

 桜庭一樹さんの小説をよく読みますね。中でも、「無花果(いちじく)とムーン」という作品が好きです。主人公の少女が大好きなお兄ちゃんの死をきっかけに、妄想の世界で生きるようになるというストーリーで、その描き方、表現の一つひとつがSFっぽくて、魅力的なんです。私は昔からかっこいい表現とか四字熟語を調べちゃうようなところがあって。周りからは「中二病だ」ってからかわれるんですけど(笑)。桜庭さんの小説には、そんなかっこいい表現がたくさん詰まっていて、他にもいろいろと読みましたね。15歳の少女が宇宙人と逃避行をする「推定少女」という小説は、「私もこの子になりたい」と思いながら読んでいました。いつか演じるのが夢です。