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井上ひさしさん「発掘エッセイ・セレクション」刊行 単行本未収録の心に残る言葉

 なくなって10年の作家、井上ひさしさん。もう新しい文章は読めないと思っていたが、単行本に未収録のエッセーが本になって現れた。『井上ひさし 発掘エッセイ・セレクション』(全3冊予定)だ。

 『吉里吉里人』やコメ、日本語などについての文章を編んだのが『社会とことば』。新閣僚の記者会見を聞いて「紋切(もんきり)型」について考え、JRは何の略語か探る「ニホン語日記」は、今も楽しい。

 「人間は、自分の与(あずか)り知らぬうちに、自分の人生の真っ只中(ただなか)にいる」「生きて行くのが怖い、死ぬのはなおさら怖い。しかもそう思う方が、じつはずっと人間らしいことなのだ」と、ある人の死を通して教わったと書く文章「死の前での平等」は、心に静かに残る。

 2冊目の『芝居とその周辺』には、10代で雑誌に投稿したチャプリン論、シェークスピアやチェーホフの核心にふれるレッスン、自作をめぐる文章を収めている。

 そして、これらを驚くべき捜索力で探し出したのが、井上ひさし研究家の井上恒(ひさし)さんだ。シャレのようだが、本当です。(石田祐樹)=朝日新聞2020年7月4日掲載