東京と千葉の純喫茶18店を描き起こした。斜め上から見下ろすような視点の絵は、精密さとぬくもりを兼ね備えている。
4人席の対角に座る男女の関係は? トーテムポールや有田焼の大皿といった調度品があるのはなぜ? 想像は尽きない。ソファの陰影からは手ざわり感まで伝わる。
著者は取材の日、開店1時間前には先方に到着する。建物や家具をレーザー測定器で測量し、数百枚の写真を撮るという周到な手順を重ねた。
設計事務所勤務や銭湯の番頭を経て、『銭湯図解』を出した。その後画家として独立。純喫茶に着目したのは「消えてほしくない建物を絵で残したい」との思いからだ。
各店が積み重ねた歴史は、絵に続く文にもにじんでいる。本書を手に店を訪ねたら、見比べつつ長居してしまうだろう。=幻冬舎・1650円(伊藤宏樹)=朝日新聞2025年5月31日掲載
