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「彼女たちの部屋」書評 「助けたい」と願う人は必ずいる

評者: 大矢博子 / 朝⽇新聞掲載:2020年07月25日
彼女たちの部屋 著者:レティシア・コロンバニ 出版社:早川書房 ジャンル:小説

ISBN: 9784152099389
発売⽇: 2020/06/18
サイズ: 19cm/251p

彼女たちの部屋 [著]レティシア・コロンバニ

 コロンバニのデビュー作『三つ編み』は、地理的にも社会的にもかけ離れた場所にいる三人の女性が、それぞれ〈女であるがゆえ〉に直面する試練を描いた物語だった。互いの存在も知らない三人が、自身も気づかない形でつながっていく様子が感動を呼び、フランスで百万部突破、世界各国で翻訳されている。
 女性たちの戦いが場所を超えてつながるのが前作なら、本書はそれを助ける女性たちが時を超えてつながる物語である。
 舞台はパリ。弁護士のソレーヌは、クライアントの自殺を機に鬱状態になってしまう。リハビリとして医者から勧められたのはボランティア活動。住む場所のない女性の保護施設「女性会館」で手紙や書類の代書人を務めることになった。
 そこでソレーヌが出会ったのは、家庭内暴力の被害者や元ホームレス、施設をたらい回しにされてきた元麻薬中毒者、故国の差別的因習から逃げてきた難民母娘など。最初はどう付き合えばいいかわからず戸惑っていたソレーヌだったが、彼女たちと接するうちに自分に何ができるかを考えるようになる。
 この現代の物語と並行して描かれるのが、一九二〇年代のパリを舞台にした、救世軍のブランシュ・ペイロンの戦いだ。路頭に迷う多くの女性を救うため、彼女は病を押してある計画の実現に向け奔走する。
 現代と過去、ふたつの物語がつながっていく構成は『三つ編み』と同じ。こうつながるのか、とわかった瞬間、胸が熱くなった。
 ここにあるのは、本人のせいではない貧困や差別と戦う女性たちを、決してひとりにはしない、決して放ってはおかないという強い連帯だ。百年前の戦いが今につながり、きっと未来へも受け継がれていくのだという力強いメッセージだ。
 辛(つら)い現実の前にうずくまるあなたを、助けたいと願う人がいる。必ずいる。これはそんな希望の物語なのである。
    ◇
 Laetitia Colombani 仏生まれ。小説家、映画監督、脚本家、女優。小説は『三つ編み』に続く2作目。