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「新自殺論」書評 デュルケム踏まえた刺激的な書

評者: 本田由紀 / 朝⽇新聞掲載:2020年07月25日
新自殺論 自己イメージから自殺を読み解く社会学 著者:大村英昭 出版社:青弓社 ジャンル:社会学

ISBN: 9784787234681
発売⽇: 2020/05/26
サイズ: 21cm/291p

新自殺論 自己イメージから自殺を読み解く社会学 [編著]大村英昭、阪本俊生

 社会学の創始者の一人とされるエミール・デュルケムが1897年に刊行した『自殺論』は、当時進行していた産業化や都市化の中で、何が人々を自殺に向かわせているかを多面的に考察した。本書はこの古典をしっかりと踏まえつつ、そこに社会学者アーヴィング・ゴフマンの「フェイス」(体面、面子=メンツ)概念を差し込むことにより、自殺という社会現象に対する理解を拡充することを試みている。
 失業や貧困、病気などの状況に置かれても、必ずしも自殺に至るわけではない。それらの状況が、他者に対する個人の「フェイス」を損なったことが自殺を誘発しているケースが多数ある、と著者らは論じる。そして「フェイス」は社会的に規定される面が大きい。それならば、「フェイス」の在り方に介入することで、自殺のみならず苦しい人たちへの支援の可能性が開けることもあるだろう。
 現代日本のデータや事例も豊富に盛り込まれた、刺激的な書である。