「コロナ危機の経済学」書評 不均一な打撃を乗り越える手は
ISBN: 9784532358617
発売⽇: 2020/07/21
サイズ: 21cm/379p
コロナ危機の経済学 提言と分析 [編著]小林慶一郎、森川正之
新型コロナウイルスの襲来は、経済にいかなる影響をもたらしたのか。現状はどうなっており、我われはどうすればよいのか。いまも渦中にある我らに本書は提言と分析を与える。執筆には第一線で活躍する多くの研究者があたっている。
痛感させられるのは、産業への影響の不均一さだ。例えばホテルや遊園地のように人が集まるサービス業は大きな打撃を受けた。外出の抑制は化粧品の消費を減らした。一方、パソコンや主食はよく売れた。テレワークが広がったし、家庭での食事が増えたからだ。
3月にはWHO(世界保健機関)等が、グローバル化の縮小にともなう食料品不足を警告した。だが「食料品」という食べ物はなく、影響は腑(ふ)分けして考えねばならない。例えば米国等から輸入する穀物飼料に、日本の畜産は頼っている。その輸入は止まるだろうか。そもそも先進国の穀物生産は機械化が進んでおり、他国からの労働者が足りなくなっても、生産は止まらない。そして機械化が遅れている途上国では、労働力は比較的豊富なので、やはり影響は大きくない。となると飼料が輸入できなくなる事態は考えにくい。
コロナ危機は日本社会が抱えるいくつもの難点をあらわにした。例えば退院基準が過度に厳しいこと、デジタル化の遅れ等である。医療崩壊は起こらずに済んでいるが、特別定額給付金の支給ではオンラインより郵送のほうが早いという事態が起こった。だからこそ、この機に社会の制度を改善し、慣習を改めようという指摘が本書には多くある。
こうした指摘は国内に留まらない。各国はコロナ危機への対応に政府債務を積み上げている。一国だけが課税により債務を減らそうとすると、その国からの資本逃避が起こる。だから債務の処理には国際協調がいる。その仕組みを我われは作れるだろうか。後世にいまの時代を振り返ったとき、どれほどよき変化を残せているだろうか。
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こばやし・けいいちろう 東京財団政策研究所研究主幹▽もりかわ・まさゆき 一橋大経済研究所教授。