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反抗期を知らなくたって… 町屋良平「しき」など辛島デイヴィッドさんが薦める新刊文庫3冊

辛島デイヴィッドが薦める文庫この新刊!

  1. 『しき』 町屋良平著 河出文庫 792円
  2. 『そして、バトンは渡された』 瀬尾まいこ著 文春文庫 814円
  3. 『静かに、ねぇ、静かに』 本谷有希子著 講談社文庫 649円

 (1)自らは「経験しなかった反抗期をこなして」いる弟と母が衝突する家を抜け出した青年は、夜の公園で踊る。動画のなかの動きを再現することにより「肉体の暴走を食い止め」ようとする「かれ」を中心に、高校二年生の男女の一年が軽やかな文体で描かれる。体は大人だけれども心はまだまだ成長過程。なぜか幼少期よりも遠くに感じられる高校時代に見えていた世界がもう一度見えるのでは。そんな幻想さえ抱かせてくれる青春小説。

 (2)の主人公も不思議と反抗期を知らない。幼くして母親を亡くし、父親とも小学生の時に離れ離れになった「優子」は、親や家族の形態が何度も変わるなかでも健やかに育つ。高校二年の進路相談では「困ったこともつらいこともない」ことを逆に「困った」と嘆くほど。だが決して楽なことばかりではない。まだ付き合いの浅い親には気を使い、友人や恋人の小さな裏切りも静かに受け入れる。人と人の結び付きについて改めて考えさせられる本屋大賞受賞作。

 (3)芥川賞を受賞した「異類婚姻譚(たん)」で夫婦関係のなかで徐々に主体性が失われていく様を見事に描いた著者が、本書では人をつなぐツールのはずのSNSで逆に人の世界が狭まっていく様子を描く。スマホ依存の夫婦や友人グループの行動がエスカレートしていく模様は笑えるのに笑えない。小説に解説はマストではないと考える方だが、武田砂鉄の痛快な解説には思わず噴き出してしまった。いい……ですよね!?=朝日新聞2020年10月31日掲載