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三島由紀夫作品、女性からの視点 「お耽美」世界の王道を大まじめに 作家・長野まゆみさんインタビュー

長野まゆみさん=金栄珠氏撮影、講談社提供

 国を憂えて天皇を論じ、肉体を鍛えた三島はこれまで、主に男性によって語られてきた。現代を生きる女性にはどのように映るのか。三島作品を深く愛する作家の長野まゆみさん(61)に聞いた。

 1970年代後半、美術系の女子高校に通っていた私たちにとって、三島由紀夫のキーワードは「お耽美(たんび)」でした。今でいう「ボーイズラブ」、「腐女子」が好む世界ですね。

 三島自身は谷崎潤一郎を敬愛し、正統派の耽美的世界を目指していたと思うのですが、竹宮恵子さん、萩尾望都さんら少女漫画家が描く同性愛の世界にどっぷり浸っていた私たち女子は、サブカルチャーっぽく、「お耽美」と称していました。

 そんな私たちが、『禁色』をはじめ、三島の同性愛や美少年・美青年を巡る作品を読むと、作中の登場人物の顔が、竹宮さんの描くキャラクターの顔に入れ替わってしまうんです。

 ただ、竹宮さんの漫画はエンターテインメントを意識し、ゆるく読めるように作ってあるのですが、三島の作品やパフォーマンスは私たちには大まじめすぎて、つい笑ってしまったり、茶化(ちゃか)したくなったりしてしまいました。

 私たちの間で三島の入門編とされていたのは、「孔雀(くじゃく)」という短編。「殺された孔雀と美少年を巡る怪異譚(たん)」という、まさに「お耽美」の王道をゆく作品です。パロディーのネタで一番人気だったのは、「豊饒(ほうじょう)の海」第1巻の主人公、松枝清顕(まつがえきよあき)君ですね。絶世の美少年だけど、性格があまりに自意識過剰で変てこで、リメイク向きなんです。

 お耽美世界の「必修」アイテムの一つとして、3世紀のキリスト者セバスチャンが裸で木に縛りつけられて矢を受ける「聖セバスチャンの殉教図」があるのですが、三島もセバスチャンが本当に好きでした。ただ、三島は自らセバスチャンそっくりのコスプレをして、篠山紀信さんに写真を撮ってもらうところまでやってしまう。やっぱりおかしいですよね。

 私たちが三島を「つい笑ってしまう」理由の一つは、三島は当時の文壇や主に男性読者を対象にしていて、やがて私たちのような女性読者が登場するとは、想像もしていなかったからでしょう。

 だけど、三島がもっと長生きしていたら、竹宮さんや萩尾さんの作品に触れてきっと好きになっていたと思うし、私たちが本当に求めていたものを書いてくれたかもしれない。

 それは三島自身にとっても、肩の力を抜いて楽しめる、新たな「居場所」になったのではないでしょうか。(構成・太田啓之)

女性たちとの対談から読み解く三島由紀夫

 没後50年で出版が相次ぐ関連本のなかでも、『彼女たちの三島由紀夫』(中央公論新社)は異彩を放つ。過去に「婦人公論」や「主婦の友」といった女性誌に掲載された女性たちとの対談や記事をまとめ、新たに女性筆者による書き下ろしのエッセーを掲載。女性から見た三島像を浮き彫りにした。

 新たに文章を寄せたのは、漫画家のヤマザキマリさん、芥川賞作家の石井遊佳(ゆうか)さんら。エッセイストの酒井順子さんは、三島作品の少女漫画的な〈きらきらしい成分〉に夢中になったと書き起こし、武蔵大学准教授でフェミニスト批評が専門の北村紗衣(さえ)さんは、小説『美しい星』を性や家族を問い直す「クィアSF」として読み解いた。

 女優の岸田今日子や高峰秀子、越路吹雪らとの対談は全集未収録。編集を担当した太田和徳さんは「三島が女性に何を語ったか、女性が三島をどう捉えたか。これを提示することで、いままでの三島像とはちがったものが出せると考えた」と話す。

 ヒントにしたのは、不在のサド侯爵について女性たちが語り合う三島の戯曲「サド侯爵夫人」だった。「不在の三島をどう語るかといったとき、三島がサドを語ったのと同じ方法で三島自身を取り上げてみたかった」(山崎聡)=朝日新聞2020年11月25日掲載