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イモトアヤコさん「棚からつぶ貝」インタビュー コロナの時代でも、大好きな人たちへの思いは変わらない

文:加賀直樹 写真:篠塚ようこ

好きな人へ「お手紙のような感じで」

――自分の気持ちを文章に綴ったものが、1冊の本にまとまったお気持ちは?

 思い入れはメチャクチャありますね! 本自体はこれまでも何冊か出したんですけど、全部、自分で書くっていうのは今回が初めてなんです。3年ぐらい連載させてもらって(『CREA』連載「旅は道づれ 世はWOW!」)、まとめて読んでみた時に、時代の流れを感じます。でも、3年前に書いたひととは、今でもずっとつながっている。それがとっても嬉しいです。

――イモトさんがお世話になっている先輩芸能人、スタッフ、ご家族など、多くの方々とのエピソードを綴っていますね。文章に、感謝と愛情の気持ちが溢れていて、読んでいてジーンとしてしまうんです。

 わあ、そう言って下さると嬉しいです! 嬉しい……。(しみじみ)

――世界を飛び回る多忙な生活のなか、執筆に挑戦したきっかけは。

 もともとジャンルとしてエッセイが大好きなんです。読みやすいし、小説に比べると空いた時間にちょっとずつ読める。海外ロケに持っていく本にはエッセイが多かったんです。あとは、エッセイに憧れがあって、「書いてみたいなあ」って。

――ちなみに、どんな作家のエッセイを?

 さくらももこさんがいちばん好きです。あとは松浦弥太郎さん、阿川佐和子さん。最近では室井滋さんのエッセイも教えてもらって読んでいるんです。やっぱ、特に女性のエッセイのかたが多いんです。あとねえ、向田邦子さんも、(小説)作品はあんまり読んだことないんですけど、エッセイは読みました。「憧れるなあ!」って。

 ちっちゃい頃、読書感想文が得意だったのか、といわれると、全然そうじゃない。国語が得意でもなかった。(この本を)読んでもらえたらわかると思うんですけど、決して難しい言葉は知らないし、使えない。文も幼稚。でも、なるべく「ブログになってはいけない」とだけは意識して、文章として読んでもらえるように努めました。

――連載を続けていくうえで、ネタ選びに困ることは。

 なかったです。むしろ、書きたいひとがいっぱいいて、困っています。

――「このひとのことを、書こう」と決めたら、その後はどんな作業を? ひそかに取材するとか?

 具体的なことを言うと、2つ、そのひととの具体的なエピソードがあれば、書けました。例えば、いとうあさこさんだったら、A4判の紙に「ドッキリ番組で騙してしまったエピソード」「一緒にロケに行ったエピソード」とだけメモっておくんです。あとは、お手紙のような感じで、「あさこさんが読んだら『嬉しい』って思ってもらえる文章を書こう」って気持ちで書いていきました。

――エッセイへの反響、自分では思っていなかった波紋はありましたか。

 (笑って)お母さんのことを書いた回では、お母さんに怒られちゃいましたね。言っちゃいけないことを、私、書いたみたいで。

――「言っちゃいけないこと?」

 お母さんが「昔、女優になりたかった」っていうエピソードを書いたんですけど、あれ、言っちゃダメだったみたい。私にだけ教えてくれていたんですね。「もう!! 誰にも言っていなかったのに!」って怒られました。

好きなひとにはストレートに伝える

――イモトさんといえば、大の安室奈美恵さんファン。2018年、安室さん引退の際、サプライズで会うことが叶った時、震えながら「すごくすごく大好きです!」と伝える姿に胸がいっぱいになりました。文章にもイモトさんの「好き!」って気持ちがとにかくストレートに出ていると思うんです。

 嬉しいなあ。「文字にすると、より好きになる」というのはあるかも知れないです。私、普段から、好きなひとには、「好き」って言うんです。男女限らず。ちょっと恋愛になると言いづらくなる、というのはあるんですけど……。

――でも、ちゃんと番組の石崎D(ディレクター)に告白し、答えをしばらく待ち続けた挙句、結婚が叶ったじゃないですか。

 そうなんですよ、でも、だいぶ、だいぶ、勇気がいりました。緊張しました。いちばん、モジモジしました。ただ、恋愛じゃない場面で、人間的に好きなひとに対しては、結構ストレートに普段から言いますね。LINEでもそうですけど「大好きです」って伝えている。「こっ恥ずかしい」と思うことはないです。

――逆に、ちょっと苦手だな、嫌いだなという時は? どうしても人間だからあると思うんですけど。

 あります、あります。

――そういうひとたちに、イモトさんはどんな感情で臨むんですか。

 「無」。

――「無」?

 あっはっは。これ、難しいんですけどね、悩みどころですよね。好き嫌いは激しいんです。ひともそうだし、食べ物もそうだし。

――ちょっと意外です。ヘビだって食べちゃうのに。

 ひとつ、心がけているのは、好きなものに対しては「伝えよう」「言おう」って思うけど、苦手なもの、嫌いなものに対しては敢えて言う必要はない。口にしないように心がけています。けれど、態度に出ちゃうんですよね(笑)。「顔に出やすい」とはよく言われます。

――SNSの反応は気にされるほうですか。

 します。エゴサーチもします。マイナスな意見には落ち込みます。やっぱり、人間ですから、反応しちゃう。10、良いことを言われても、1、イヤなことを言われると、そっちが残るのが人間なので。見なきゃいいんですけど、見ちゃうんですよね。あれ、何でしょうね。11回はTwitter開きますね。気になりますね。うーん。

――安室さんとはその後、友達関係になったのですか。

 まったくないです。ふっふっふ。

――それは、どうしてですか?

 いやいやいやいや、だって、いや、「お友達」なんて! だって、それって、連絡先とか聞かなきゃいけないじゃないですか。いや、そんなことできないですし。いや、無理ですね。だって、たとえばですよ、向こうが「LINEでも交換します?」ってなって、(交換)したとして、「ご飯でも行きます?」なんて言われて、行ったところで何も喋れないですもん。

――好きすぎて。

 やっぱ、好きすぎると、会いたくないですよね。

――ある程度、距離をとって見るものなのかも知れない。

 ファンですね。そうそう。お友達になりたくないのか、と言われたら嘘になるけど、でも、ファンだな。無理ですね。「素」を出せないですもん、私。カッコつけすぎて。

――いっぽうで、誰よりも「素」を出せる存在のひとりが、元・相方のバービーさん。

 バービーさんは付き合い長いですからね。「腐れ縁」って言われます。

――きっと「戦友」のような感じなのでしょうね。

 そうですね、戦友に近いです。

――バービーさんとコンビを組んでいる時、ご自身がオーディションに受かって、「イッテQ!」のスターダムに。バービーさんも後に売れていきますが、当時、ちょっと心にきしみは?

 これがねえ。まったくなかったです。そこが私のダメなところであり、バービーさんの良いところなんですけど。お互い、ピン(芸人)でやりつつのコンビというのもあったし。たまに「まだ解散していないの?」みたいなことも言われるんですけど。嬉しいです。揉めたことも、罪悪感みたいなものも、私はあんまりなかった。

――バービーさん、あるテレビ番組で「応援していたけど、イモトさんの番組は見ないようにしていました」って言っていました。

 マジでー!? めっちゃ(きしみが)あるじゃん! 今、知りました! こんど聞いてみます。

ひとりじゃなくて、よかった

――石崎Dとは婚姻届けを出されましたが、披露宴はまだ。

 はい。コロナです、全部。うちのおばあちゃんが鳥取にいて、足も悪いので、地元でやろうと思っていたんですけど、延期ですね。東京でも、ひとを集めてやろうと思っていたのも、延期……いちおう、「延期」とはしていますけど、ちょっと厳しいかなって思っています。

――人生のパートナーを得たことで、この1年は変わりましたか。

 変わっ……た……。伴侶、石崎さんと結婚したから変わったのか、コロナによって社会が変わったから変わったように思えているのか、わからないんですけど、でも、この1年は変わりましたね。もちろん、生活もそうですけど、ひとりじゃなくて良かった、というのはすごく思います。石崎さんがそばにいてくれてすごく良かったと思えた1年でした。

――世界には、イモトさんがロケでお世話になっているコーディネーターやお友達が、多数いらっしゃいます。再び、彼ら・彼女らに会うことができるようになったら、どうなるんでしょう。

 うわあ……。どうなるんでしょうね。泣いちゃうな。たぶん。空港で会ったら。SNSを通して連絡はしているんですけど、23カ月に1回は必ず会っていたひとたちがいっぱいいるので。ねえ……。1年近くも会わないことって初めてなので、どうなるんでしょうねぇ。

――エッセイでは、イタリアで美味しいパスタを茹でてくれるコーディネーター・パオラさんについても書いていますね。

 会いたいなあ。パオラに会いたいです。会うと、イタリアのひとって必ずハグしてくれるんですよね。こうなった今は、なかなか難しいのかも知れない。でも、会ったらハグしたい。

――イタリアは早い時期にコロナの感染が拡大しましたよね。

 報道を見ていて、すごく不安でした。でも、彼女は彼女で、「おうち時間」を充実させて、明るく過ごしていたのをSNSで知ったので、ちょっと安心はしましたね。(各国のコーディネーターは)「まったく仕事がない」という状態らしく。そういう意味では心配です。でも、元気は元気みたいで、そこは良かったです。

――この本を読んでくれた方が、どんなアクションを起こしてくれればいいと思いますか。

 私、「棚からぼた餅」みたいな人生で、出会った周りのひとにとにかく助けられて、どうにかこうにか芸能界で生きてると思ってます。ただ一つだけ自分に誇れることがあるとすれば、「棚」までは行った、と。お笑い養成所に電話したり、好きな人に思いを伝えたり。私の場合、落ちてきたら嬉しいのはつぶ貝なので、それでこんなタイトルなんですけど。

 書き始めた3年前もそうですし、この1年も、いろんなことが変化したけど、このなかに出てくるひとたちと、自分自身の関わりは変わっていないのは、真実です。たぶん、読んでくださるひとたちにも、そういうひとたちは必ずいると思います。本を読んで下さったら、そういうひとたちのことを思い出してほしい。ちょっと連絡してみてほしいです。つながれば、いろんな思いがうまく循環していくんじゃないかな、と思います。