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バービーさん「本音の置き場所」インタビュー 「同調しなくていい、悠々生きよう」人気芸人の初エッセイ

文:五月女菜穂 写真:家老芳美

吐いた泥だと思っていたものが…

――ウェブ連載のときから読ませていただいたのですが、本当に面白くて。バービーさん、こんな才能を持ちだったんだという発見がありました。

 ありがとうございます。ギャップですかね(笑)

――改めて、どういう人に伝えたいと考えて書いたのですか?

 最初はタイトルにもあるように、ただ私の本音を仮置きさせてもらいたいなという気持ちで。特に読んでくれる人の顔は意識していませんでした。私が言いたいことを言う、心の中の泥を吐き出す。そんな気持ちで、最初は書いていました。

 1回目の料理に関するコラムをみんな読んでくれて。「言語化されて、すっきりしました」と言ってくださった人がいて。自分が吐いた泥だと思ってたものが、いろいろな人にとっては泥ではなかった、何かになったと思うと、すごく感慨深かった。そこから読者さんを意識し始めました。

 書き進めるに連れて、モヤモヤしてるものをクリアに言葉で伝えたいっていう気持ちと同時に、読んでくれてる人に対して、私はこれだけいろいろと失敗してるし、汚い本音も見せてるし、恥ずかしいところも見せてるんだから、あなたも、恥ずかしがらずに、どうぞ悠々とのびのび生きてほしいなというメッセージを込めて書くようになりました。

――モヤモヤした思いを言語化したいという欲求はもともとお持ちだったのですか?

 表に出しちゃいけないと思っていたものを書きたいなという気持ちはありました。芸人として、女性として社会的に言っちゃいけないんじゃないとか、自分でタブーだと思ってたことでも言えたらなっていう気持ちはあったんですけど、これで誰かを傷つけてしまうのではないかという怖さもありました。だから、文字で表現させてもらえて嬉しいなと思いました。誰の意図も通さずに、そのまま伝えられるから。

偏らないフラットな視点で、共感を呼ぶ

――本には、体のコンプレックスから、結婚のこと、セックスのこと、地方創生への思いなど、多岐に渡るテーマが書かれています。ご自身で特に印象的だったテーマはありますか?

 客観的に見ても、主義主張をしている回が多いですよね。でも、書いてみて気づかされたことがいちばん多かったのは、親について書いた回ですかね。書いていく中で、改めて親の愛情を感じて、自分でもどこか解けたところがあったし、温かくなった。きっと、書かなかったら気づけなかったなっていう愛情がたくさんありました。

――SNSでの反応も好意的なものばかりでしたよね。バービーさんの本音にみんな共感していたように思います。

 確かに、私のところにはですけど、ジェンダーの回とかでも批判的な意見はほとんどなかったかもしれないです。それは、ありがたかったです。SNSの中でも、いろいろな主義主張の対立が見られますけど、私はどちらか一方に偏りたくないなというのはいつも思っていて。伝えたかったことの一つに、「お互いが想像力を持って、同じテーブルで話し合ったら、もっとハッピーな世の中になるんじゃない?」 だから、お互いの視点を入れたかったっていう気持ちがありました。

 なんか、この年になってみると思うことがあって。「弱い」立場の女性の声がたくさん今挙がってますけど、私自身も「強者」になりうることってあるなと思って。パートナー間でも、社会的な面においても、「強者」になることが増えてきたときに、やっと共感というか、「そっか、そういうふうな悲しみがあったんだね」と理解できるようになってきた。それは年齢を重ねていったからかもしれないです。

――世の中の壁や偏見を、フラットに見る方なんですね。

 本音で言っちゃうと、ほぼ病気みたいなもんだと思うんですけど(笑)大学のときにインド哲学科ってところに入ったけど、仏教哲学的な見方は、先入観といったものをとっぱらうには、すごいよかったのかなっていうのがあって。見えてる世界、先入観とか常識とかって、結局外部が作り出したものだから、それと自分の根幹が、別に同調しなくたっていいじゃんとか、今になってみると思うことがありますね。

失恋を機に「自分で生きよう」

――本の中でも書かれていますが、酒・タバコ・男にしか興味がなかったけれど、30歳に差しかかろうという頃から、中国語やコピーライター養成講座などなど、自己投資を始めました。その辺りの心境についてより詳しく伺いたいです。

 やっぱり20代後半、忙しくさせてもらっていた。でもニーズがあったにもかかわらず、これが本当にしたいことなのかどうか分からなかった。ここのギャップが自分の中で多分いちばん苦しかった。それで荒れてしまったと思うんですけど。

――その20代ならではの焦りって、私もすごく分かるんですよね。「30歳の壁」というか。

 私自身は、若さだけでは通用しなくなるという、女性の30歳の壁はあんまりなかったと思うんですよね。ただ、私生活で失恋して。そちらの方が私にとっては壁だったかもしれないですね。

――失恋を機に考えが変わった。

 はい。金持ちと結婚したら、ステータスも得て、お金も自由で、反対に、ヒモと結婚したら、私がずっと稼がなきゃいけないんだという先入観があったんです。まだそのときは。で、自分がどちらになるか分からないから、どう明確な目標を持てばいいか分からない。だけど、別にパートナーによって、自分がどうなるとかじゃなく、自分で生きようって思ったんです。その失恋を機に。

 だから未だに、自分自身の中身を充実しなくては駄目だなという気持ちはあります。別にお稽古事やお勉強をしたからといって、私自身が満ち足りたわけでもなかったから。日々続けていくしかないなっていう感じですね。

最初は「カルピスの原液みたい」だった

――バービーさんにとって、書くこととは、どういう行為なのですか?

 ぽろぽろと落ちてしまいそうな言葉をただ書き連ねていることはあったのですが、今回のようにちゃんと読めるものとして書いたのは初めて。人に見せるという意味での書くことに、ずっと私憧れていました。だから、年々ハードルが高くなっちゃって、自分に才能がないことがバレるんじゃないかという怖さもあって、なかなか書けなかった。

 書くことで、デトックスにもなったし、ストッパーにもなったし、逆に言うと起爆剤にもなったし、コントロールしてくれてるかもしれないです。今回、お話をいただかなければ、できなかったことだと思います。

――ウェブ連載も、講談社の編集部の方々といろいろやりとりされながら書き上げていったのでしょうか?

 そうですね。今もそうなんですけど、テキストが縦書きになる「縦式」というアプリで執筆して。2000文字から3000文字というお話だったんですが、テンションが上がるので、書いたら4000文字、5000文字になって。

 最初の原稿は内容がとっちらかっていましたね。編集部の人に「これはカルピスの原液です」と言われたことをよく覚えています。普通は飲みやすい濃度にして飲むんです、みたいな(笑)これは濃すぎて、美味しくないし、思いが伝わらないだろうから、ちょっと薄める作業、どんどん削ぐ作業を一緒にしていきました。

――「どこに置いておけばいいか分からずふわふわ漂っている本音を、ちょっとの間、一旦そこに仮置きさせてほしい。自分の中で落としどころを見つけたとき、また回収しに来るつもりだ」(15ページ)とあります。「回収」というのはどういう意図ですか?

 私、もともと気分屋だし、根幹はそんな変わってないんですけど、考えもどんどん日々変わっていく。もしかしたら180度違う考えになるかもしれないけど、今はその考えの答えが出る途中なんだけど、出すよっていうのを、一旦置かせてもらいたくて。自信持って、これが答えですって言えるときが来たら回収したいなと思っています。

ワクワクしながら、蒔いた種の芽を育てていきたい

――これからどんな自分になりたいなと思っていらっしゃるのですか?

 今年はいろいろと蒔いた種が芽吹いた年でした。私、3日坊主で飽き性だから、ずっとわくわくしながら、その芽が成長して大きくなるまで、ちゃんとコツコツできる人間になりたいな。あとは、創作していきたいですね。日々に追われてしまうので。

――蒔いた種というのは、この本の他にも?

 下着のプロデュースもそうですし、地元の街おこしもそうですね。何かやりたいなと思ってたことが、1つ1つ形になっていった。形になっただけで終わらないようにしたいなと思っています。

――改めて『本音の置き場所』をどんな人に届けたいですか?

 みんなに悠々と生きてほしいなと思っています。ダイレクトメッセージやコメントで、お悩み相談をたくさんいただくんです。もっと寄り添ってほしいとか、元気が欲しいとか、検索すればわかるようなことを聞いてきたりとか(笑)。みんな、自分で思考して選択するということが苦手なのかなと思うんですね。だからYouTubeでも「最後は自分で判断してね」っていつも終わるんです。

 私は、元気そうに見えていいなって思うかもしれないけど、めちゃめちゃ失敗して、いろいろ試して、めちゃめちゃボコボコにされながらも、今ここに何か一応生きてますよ。だから、自分で一歩踏み出すことが苦手な人にぜひ読んでもらえたらなという気がします。