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かまいたち・山内健司さん初エッセイ集「寝苦しい夜の猫」インタビュー 魚の骨に身をつけていくような執筆でした

文:安達麻里子 写真は扶桑社提供

無駄をそぎ落とすネタ作りとは異なるエッセイ執筆

——初の著書の刊行おめでとうございます! 最初に、このエッセイを書くことになったきっかけを教えていただけますか。

 ありがとうございます。昨年の頭くらいに、扶桑社さんからお話があったんです。 以前から本を出してみたいと思っていたところに、猫目線でかまいたちを語るという企画の提案があって。 本を出すにしても普通の本を出す気持ちはなかったので、「猫目線」って変なこと言っているな、面白そうだな、と思ってお話を受けました。

——お笑いのネタはご自身で書かれているそうですが、もともと文章を書く習慣があったのでしょうか。

 ネタは書いていますけど、ネタでしか文章を書く習慣はなかったですね。

——ネタの執筆と本の執筆で異なるところはありましたか?

 ネタは、無駄な部分を削ぎ落として書く感じなんですよ。言葉はできるだけ少ないほうがいい 。一回書いたものから削いで削いで、それから足りない部分を補足して補足して、というイメージ。だから、僕がこのエッセイを最初に書き上げた時は、骨みたいな感じだったんです。魚の骨状態のもの。それを担当者に見せたら、これで全体の2割くらいのボリュームですよ、と言われました。

——「魚の骨」ですか。

 骨を書く癖がつき過ぎていて、骨があればわかるやん、加えて書いても誰も興味ないやろ、と思っていたんです。でも言わんでいいんちゃうかなと思う部分も書いていった方が、読者がイメージしやすいということを教わって。骨に身をつけながら、いろんな情報をどんどん入れながら書き上げていきました。

——書くことは楽しかったですか?

 正直、楽しくはなかったですね。楽しくはないんですけど、 書きながらめちゃくちゃ過去のことを思い出してきて。こんなことあったなとか、これテレビでも喋ってないな、とか。自分の記憶を掘り起こすきっかけになりました。基本的に面倒くさがりなので作業的なものは苦手なんですけど、記憶を思い出しながら進めて行くっていう作業はよかったです。

——実は相方の濱家さんの方がエッセイデビューは先なんですね。コンビでパーソナリティーを務めるラジオ番組、「かまいたちのヘイ!タクシー!」の企画つながりでwebメディアに掲載された、お弁当に関する短いエッセイのようですが。

 え、そうなんですか? そんなこと全く知らなかったです。知らなかった。でも短いやつですよね?

——知っているものとばかり・・・。濱家さんは、山内さんのエッセイ本については知っているんですか?

 濱家は僕が本を出すことは知っていましたけど、途中で見たりはしていないです。僕1人で黙々と作業していたので。 手元に本は渡ってはいるけど、 まだ読んでいないと思いますね。濱家の奥さんは読んだらしいですけど。

——まだ感想は届いていないんですね。

 濱家は本を読むのが苦手っぽいんです。集中力がないんですよ。同じことをずーっとするのが苦手なんです。

漫画はめちゃくちゃ好き、相当網羅しています

——山内さんは読書されますか?

 基本、漫画を読むのがめちゃめちゃ好きです。活字の本はあんまり読まないです。ただ、活字の本でも読み出したら一気に読まないと気が済まないタイプで、だからめちゃくちゃ疲れるんですよ。 どんな量でも一気に行こうとしてしまう。頭が疲れるから、よほどのとき以外は読まないようにしています。

——お気に入りの本は。

 活字の本であれば、映画にもなった『フォレスト・ガンプ』ですね。原作本を一気に読んで、映画ももちろん見ました。映画の主演のトム・ハンクスが、フォレスト・ガンプの時に38歳だった、というのをこの間知りまして。見た目若すぎないか、と衝撃を受けたところです。 あとは、芸人さんが出した本はほとんど全部読んでいます。 最近では麒麟の川島さんの本『ぼくをつくった50のゲームたち』(文藝春秋) 。漫画だったら『ONE PIECE』『キングダム』『呪術廻戦』とか。漫画は相当網羅していると思います。

猫愛から生まれた「にゃんじ」目線

——エッセイは愛猫の「にゃんじ」目線で書かれています。5匹の猫を飼われていますが、なぜにゃんじがストーリーテラーに選ばれたのでしょうか。

 にゃんじは、 5匹の中で一番後輩の猫。ダントツで年下の猫なんです。一番新参者の猫が、先輩猫から聞いた話を交えて語るというかたちにしました。ほんまの一番最初は全編にゃんじの語り口で、全編語尾が「にゃー」で行こうと思っていたんですけど、読みにくすぎるな、ってなって。最終的にストーリーテリングの感じで進めることになりました。

——確かに全編の語尾が「にゃー」は読みにくいかもしれません(笑)。 山内さんのインスタグラムは、猫が溢れていてとにかく可愛いです。それぞれの猫について教えていただけますか。

 5匹のうち、ベージュっぽい4匹がメインクーンという種類で、1匹だけ白いのがラガマフィンのにゃんじ。メインクーンの4匹は全員身内。嫁が僕と付き合う前からメインクーンを2匹飼ってて、そのあとに子供が6匹生まれました。お母さん猫と子猫3匹を嫁の実家で飼っていて、お父さん猫と残り3匹をうちで飼っています。それににゃんじが加わって5匹になった。 にゃんじは、僕と嫁で一緒に買った初めての猫なんです。

——そんな猫愛に溢れる山内さんですが、テレビ番組で猫アレルギーと診断されたんですよね。

 そうです。猫アレルギーと言われてから、やたら咳が出るようになったり息苦しくなったりするんです。 それまではそんなに気にならなかったのに。でも全然問題ない。耐えられる範囲です。 猫が顔の上に乗った状態で寝たりしているんで、猫アレルゲンは入りまくっているはずです。でも全然問題ないです。

——猫は増える予定は?

 いや、ないですね。ただ、嫁が犬を買おうとしている気配がある。

——すごい。動物王国になりそうですね。

 そうなんですよ。絶対ダメって言っています。 二人で一緒に散歩しているときに老夫婦が連れていたワンちゃんを見て、めちゃくちゃ珍しい犬種で、それをどうしても飼いたいと言っています。でも珍しいから50万円くらいする。ダメって言っています。

M-1は卒業、審査員を狙います

——さて話は変わりまして、「M-1グランプリ2020」が昨年12月に開催、放送されました。
山内さんにM-1について聞かないわけにはいきません。2019年のラストイヤーを終え、今年は初めて出場者ではなく外野の立場で観られたと思いますが、どのようにご覧になりましたか?

 裏番組で生番組に出演していたので、リアルタイムで全部見られたわけではないのですが、出演前に途中まで、出演が終わってから家に帰って観て、という感じでした。昨年の僕らが出た決勝は、そらミルクでしょ、ミルクボーイが優勝でしょ、という空気だったと思うんですけど、今年の決勝はすごい接戦でした。どの組が優勝してもおかしくないと思って観ていました。実はこれはずっと言っているんですけど、僕はM-1の審査員を狙っています。だから審査員目線で見ていました。

——審査員ですか!

 点数をつけたいんです。俺が。俺が点数をつけたい。会場のヒリヒリした生の空気の中で審査をするっていうのは、楽しいと思うんですよね。

——審査員の中で「降りたい」という話も出るほどプレッシャーがかかる立場のようですが、山内さんはプレッシャーは感じませんか。

 点数を付けることにプレッシャーを感じる人もいると思うんですけど、僕はプレッシャーは感じないと思いますね。できることなら、なる早で審査員やりたいです。もうずっと審査員になりたいと言っているんですけど、全く声がかからない。優勝していないですからね。

——優勝していないナイツの塙さんが審査員になられている例もありますので、山内さんの審査員、期待しています。ところで、M-1を離れてから番組を観て、また賞レースに戻りたいという気持ちにはなりませんでしたか?

 賞レースにまた出たいという気持ちは全くない。今は賞レースに出る代わりにYouTube(「かまいたちチャンネル」)でバトルをしているという感じです。 YouTube での急上昇を常に狙っています。目指すレベルはとりあえず登録者数100万人。100万人にいってから、芸人で一番の登録者数のところを目指していきたいと思っています。

——芸人さんの登録者数で一番というと。

 カジサックさんか、オリラジのあっちゃん(オリエンタルラジオの中田敦彦)か、どちらかだと思います。

—— YouTubeのどういった点に魅力を感じますか。

 YouTube は再生回数などの数字がはっきり出るものなので、そこが分かりやすくていいんです。ただ実際は、カジサックさんやあっちゃんとかを追い抜きたいというわけではないんです。 その2人はパイオニアすぎるので。かなり遠くの目標です。僕たちは後発組として、頑張って追いついていきたい、というところです。

——さて、最後になりますが、このエッセイをどのように読んでもらいたいですか?

 まず言いたいのは、この本は猫の専門書ではありません。発売当初にAmazonの猫の部門で一位をとっていて、なぜか猫の専門書と思っている人が多いんですよ。 中身は猫以外の部分がめっちゃ多いです。 M-1についても書いているので、M-1に興味がある人にも読んで欲しいですし、そんなに難しいことは書いていなくてさらっと読める本だと思うので、軽い気持ちで読んで欲しいです。

——第2弾、第3弾も期待できますか?

 第2弾、第3弾は、しばらくないです。燃え尽きました!