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絵本の翻訳に初挑戦した冨永愛さん 「小さな頃から一人ひとりが自信を持てるように」

文:田中春香、写真:篠塚ようこ

欲しかった言葉が詰まっていた

――出版元の早川書房から「この本の翻訳をしてみないか」とお声が掛かり、初めての翻訳に挑戦したそうですね。

 この絵本が日本で出版されることはすごくいいことだと思いましたし、自分がこういった女の子をエンパワメントするテーマの作品に携われることは喜ばしいことだと思い、お引き受けしました。

 絵本を手に取った時は「可愛い本だな」と思いましたね。「女の子はこうでなきゃいけない」「これをやってはいけない」と言われてきた経験が自分にもあったなぁと思い出しました。

『女の子はなんでもできる!』(早川書房)より

――たとえばどんなことを窮屈に感じていましたか?

 「女の子なのだから髪の毛は長くなくてはいけない」とか「男の子っぽい服装をしてはいけない」とか。疑問に思ったことも、もっと言えば、疑問にさえ思わなかったこともいっぱいあるんですよね。

 自分が幼い頃にこんなことを言って欲しかった、という言葉がたくさんこの絵本には詰まっています。子どもの頃にこの本に出会っていたら、もっと自分の人生に広がりがあったはず。大人になるにつれ自然に気づけたこともあるけれど、小さい頃から知るチャンスがあるのは大きいですから。もちろん、女の子だけでなく、ジェンダーの垣根を超えて、たくさんの子どもにこの本のメッセージが届いて欲しいと思います。

――翻訳をするにあたり工夫したことはありますか?

 子どもが読みやすいような言葉を選んだり、リズムを整えることにこだわりました。子どもが言いづらい言葉を避け、口に出して楽しくなるような言葉を選びたいと思い、何度も声に出して読んでみました。私が翻訳をするということは、私が今まで生きてきた中での言葉しか使えないわけですよね。その中からいかに子どもにわかりやすい言葉をセレクトするかを考える作業はとても勉強になりました。

 「女の子は」が主語の本ではあるけれど、さまざまなジェンダーの子たちにも読んでほしいと思ったので、あまりステレオタイプな「女の子ことば」を使わないようにも意識しました。女の子向けの本だから、「〜〜だわ」「〜〜なのよ」を使う……そういった常識も取っ払いたかったのです。

作品と過ごした3カ月

――翻訳はどのように進めたのですか?

 普段自分が過ごす中でパッと思いついた言葉をすぐに拾えるように常に原稿をスマホにいれて、いろんな状況で見返していました。「こういう言い回しがいいんじゃないか?」「こういう表現おもしろいかも」と一つひとつ精査しました。3カ月ほどでしょうか、思いついたその瞬間の言葉が逃げていかないように、作品と共に過ごしました。

――参考にしたコンテンツはありますか?

 いろいろな本を読みましたね。日本語の詩集だったり。実際に金子みすゞさんからインスパイアされた「み~んなちがって み~んないい」というフレーズも入っています。

――原文を補足しているのですね。

 そうですね。英語を直訳すると伝わりにくい部分もあるので。たとえば「み~んなちがって み~んないい」の部分は「All girls are different.」が原文です。そのまま訳すのとでは少し違うでしょ? 私自身大好きな言葉ですし、小さな子どもたちが口に出しておもしろい、刺さる言葉だと思いました。意訳、すごく難しかったんですけどね。楽しかったですよ。

『女の子はなんでもできる!』(早川書房)

――そのほかに気に入っている表現はありますか?

 「おんなのこはじしんたっぷり」という部分も好きですね。この言葉を声に出して読むと力が湧いてくる、言霊の力を感じます。なぜか、今の日本って成長するにつれて自信をなくしていくようにできていると感じます。不思議ですよね。

 私自身、ティーンエイジャーの頃に「自分はなんで生まれてきたのか」「自分はなんのために生きていくのか」と思いつめ、生きるか、死ぬか、みたいなことまで考えが及んでしまったこともあるのですが、そんな時、自己肯定感が育っていれば、最悪の選択をとらなくて済むと思うのです。日本はティーンの自殺率がすごく高い。そう考えると、小さな頃から一人ひとりが自信を持てるように背中を押す絵本は大きな意味を持つと思います。

やらない後悔よりもやる後悔

――冨永さんが女性の可能性を広げる作品の翻訳に携わった、そのこと自体が多くの女性たちに勇気を与える出来事だとも思います。

 女性はお母さんになると、いつでも何にでもチャレンジするわけにはいかなくなるのは事実。子どもを育て、慈しむことに集中している時期だと思うので。でも、チャレンジすることをためらっている人は、素直に取り組んでみたらいいと思います。やりたいと思っているのであればぜひ、やってみたらいい。なぜなら、絶対に後悔するから。やらなかったことを後悔するよりも、やってみて後悔するほうがきっと自分の人生が輝かしいものになると思うからです。

 もちろん、どうやってチャレンジするかのノウハウはそれぞれに違うから私が助言できることはないけれど、私も今まで「やらない後悔よりもやる後悔」という気持ちで選択してきたので、ためらわないでほしいですね。今回、翻訳を通して子どもたちの力になれたらと思い取り組みましたが、同時にお父さん、お母さんにとっても何かの気づきになればと願っています。

――冨永さんは幼少期、絵本とどんな風に関わってきましたか?

 絵本が好きな子どもでした。幼い頃に好きだった絵本を長く持ち続けていたんですけど、引越しするたびに少しずつどこかへ行ってしまったんですよね(笑)。くまとリスの、どんぐりが出てくる絵本が好きだったんですけど、タイトルが思い出せなくて、探しても見つからないんです……。

 私が子どもの時に読んでいた『どろんこハリー』を次は息子が読むようになる。そういうのも嬉しいですよね。この本も、大人になるまでとっておいてもらえるようなそんな本になればいいなと思います。