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小佐田定雄さん「新作らくごの舞台裏」インタビュー 手の内・極意、惜しみなく

小佐田定雄さん=滝沢美穂子撮影

 桂枝雀の新作落語の会に通い詰めていた25歳のとき、枝雀の自宅に送った原稿用紙10枚ほどの台本が始まりだった。「幽霊(ゆうれん)の辻」。演じられるとは夢にも思っていなかったが、電話がかかってきて喫茶店で話すことに。「来月やりますわ」。保険会社のサラリーマンが、落語作家としての第一歩を踏み出した。

 それから44年。263席の新作を生み出し、押しも押されもせぬ第一人者となったいま、代表作の「貧乏神」「雨乞い源兵衛」「火事場盗人」など40席の思い出をつづった。

 落語作りの手の内が明かされている。「笑いは緊張の緩和」という枝雀の考えや古典から得た着想にとどまらない。「必ず誰が演じるかを想定して書く」「お客様の心に引っかき傷を残すようなフレーズを入れると、あとに残る噺(はなし)になる」。経験から紡ぎ出された極意の数々も、惜しみなく込めた。

 「一つの集大成。でも引退するわけやない。これまでを整理して、また新しい何かが生まれたら」

 週に1度は落語会へ足を運び、楽屋に寄っては打ち上げまで付き合ってきた。本当は別の人が書いたんじゃないかと疑われたこともある。自分の落語を聞き、客席で大笑いしているからだ。「どう演じてくれるか。いつもワクワクしています」

 台本通り一字一句、しゃべってほしいとは思っていない。噺家が工夫を加えるのはその噺を気に入ってくれた証拠だから。

 桂文珍、桂南光、笑福亭鶴瓶といった大看板をはじめとする噺家たちとの信頼関係や、共同作業のあり方も伝える。

 若い世代の書き手が育ってほしいという思いもこの一冊に託した。それは、新たな噺を心待ちにする、筋金入りの落語ファンとしての願いでもある。(文・篠塚健一 写真・滝沢美穂子)=朝日新聞2021年1月9日掲載