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斎藤幸平『人新世の「資本論」』 SDGsで温暖化止まらず

 著者は1987年生まれの社会思想家。フンボルト大学で博士学位を取得し、権威ある国際的な賞を最年少・日本人初で受賞した華麗な経歴だ。NHKテレビ番組「100分de名著」でマルクスの『資本論』の解説を担当し、他の多くの媒体にも登場しているので、親近感をもっている方々も多いだろう。

 本書の論旨は明快である。気候変動は地球に確実に危機をもたらす。気候変動の原因である資本主義を温存したままでは、どのような弥縫(びほう)策も気候変動と危機を止めることはできない。資本主義の本質を見抜いていたマルクスもそのことを指摘していた。それゆえ、私たちは資本主義を脱して、エネルギーや生産手段など生活に不可欠な〈コモン〉を自分たちで共同管理する「脱成長コミュニズム」に進まなければならない。以上。

 気候変動と資本主義の問題点を豊富なデータや研究により喝破してゆく迫力はすばらしい。「SDGs(持続可能な開発目標)」でも「グリーン・ニューディール(技術革新による環境保護と経済成長の両立)」でも、加速度的に進む環境破壊と温暖化は止められない。先進国で達成したかに見えても、そのツケは途上国に押し付けられるだけ。電気自動車に必要なリチウムもコバルトも、途上国での貴重な水の浪費や環境汚染、過酷な労働を犠牲にしている。

 資本主義こそが、利潤のあくなき拡大を目指してすべてを市場と商品化に巻き込み、自然の略奪、人間の搾取、巨大な不平等と欠乏を生み出してきたからには、それを変えなければ、解決にならない。

 うんうん、と読んできて、これからの構想にいたって、ややうっとなる。脱成長コミュニズムを実現するための価値観の転換は可能か、権力や財力を握っている層の抵抗は超えられるか。その未来に(私がそれなしでは生きられない)インターネットやPCはありますか? 著者の話をもっと聴いてみたくなる。それだけ魅力のある本です。=朝日新聞2021年1月16日掲載

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 集英社新書・1122円=7刷11万5千部。2020年9月刊。発売と同時に反響がSNS上にあふれ、今も止まらない。

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