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「美術/中間子 小池一子の現場」書評 人と人をつないで世を輝かせる

評者: 長谷川逸子 / 朝⽇新聞掲載:2021年02月06日
美術/中間子 小池一子の現場 著者:小池一子 出版社:平凡社 ジャンル:芸術・アート

ISBN: 9784582620719
発売⽇: 2020/12/11
サイズ: 21cm/255p

美術/中間子 小池一子の現場 [著]小池一子

 1960年代から今日までアートイベントと関わり続け、広い視野を持ち、アートクリエイティブの世界を先導している小池一子さん。彼女の活動の歴史をまとめたのが本書である。
 タイトルの「中間子」という言葉が気になり、その項目から読み始めた。小池さんが「生涯を掛けた同志としての結びつきをもつ」のが、グラフィックデザイナーの田中一光氏とファッションデザイナーの三宅一生氏。彼女は2人の手腕をまとめる媒介者として活動した。そうした自分の立場を「中間子」と呼ぶ。人と人、あるいは何かと何かをつなぐ存在。アーティストの活動を支えるにはそうした第3の存在が必要だったと。そして「世の中を輝かせるヒントが、ここにありはしないだろうか」という。
 2016~20年には十和田市現代美術館館長を務め、アートでまちづくりを行った。現在は、「東京ビエンナーレ2020/2021」開催に向け、美術家の中村政人氏とともに総合ディレクターとして関わっている。東京大空襲の悲劇などを忘れないよう、過去を鎮魂し、未来への祈りを捧げる「東京に祈る」というアートプロジェクトを女性作家らと企画しているという。東京で生まれ育った小池さんだが、戦時下は静岡に疎開していた。美術活動を東京でやるにあたって「東京人への鎮魂」をやりたいと思ったと語っている。
 1960年代後半から世界各地で資本主義社会がもたらす文化の均質化への抵抗の動きがあり、芸術活動が活発だった。小池さんはそうした空気を吸いながら活動してきた。私も65年にフィンランドの建築家アアルトに会いに行くため、ミラノ、パリ、ロンドンを旅し、様々な分野の人たちの新しい活動に出会った。東京でもアーティストの作品や演劇、音楽やファッションなど忙しく見歩いた頃のことを思い出す。当時から現在までアートを開く催しを企画してきた小池さんの活動を一気に見た思いだ。
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こいけ・かずこ 1936年生まれ。クリエイティブ・ディレクター。著書に『イッセイさんはどこから来たの?』など。