堀部篤史が薦める文庫この新刊!
- 『ロボット RUR』 カレル・チャペック著 阿部賢一訳 中公文庫 924円
- 『2010年代海外SF傑作選』 橋本輝幸編 ハヤカワ文庫SF 1276円
- 『江戸のコレラ騒動』 高橋敏著 角川ソフィア文庫 1100円
(1)は「ロボット」という言葉を現在使われる意味で最初に使用した戯曲。本作で描かれるのはその響きから連想されるような機械仕掛けの人形ではなく、いわゆる「ヒューマノイド」と呼ばれるような姿形は人間に瓜(うり)二つな存在。安価な労働力として「ロボット」が大量に生産され、物価は急落するがその結果人類の人口減に拍車がかかってしまう。AI(人工知能)が社会に与える影響を思わせる、非常に現代的な問題を20世紀初頭に問うていたことに驚かされます。
チャペックの『ロボット』から百年後の今も、AIと人間との関係はSFにとって重要なテーマであり続けています。(2)に登場する短編にもAIを扱ったものが多く、そのどれもが他者との比較からAIの輪郭を浮き彫りにしています。例えば、子どもの気まぐれや、発想の根拠が理解できずに苦悩するAIや、子育てと同じように世話することで言語を習得し成長する「ソフトウェア」が人々に熱狂され、見捨てられるまでを描いた作品など、いずれも彼らの姿から、人間とは何かを考えさせるものばかり。
コロナ禍の影響で、ペストやスペイン風邪など過去の感染症に関する書物が再び脚光を浴びる中、(3)は江戸時代のコレラを題材に、民衆がどのように受け止め、どのように抵抗したかを資料を元に読み解いた一冊。姿は見えず、対処法も不明な疫病を前に、噂(うわさ)に振り回され、ヒステリックになる様はコロナ禍を生きるわれわれの姿に重なる部分も。=朝日新聞2021年2月6日掲載