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メレ山メレ子さん「こいわずらわしい」インタビュー 恋愛したさとしたくなさ、揺れ動く心情をエッセイに

文:篠原諄也 写真:北原千恵美

恋愛はエクストリームスポーツだ

――本書は「モテ」がテーマのウェブメディア(青山メインランド運営のオウンドメディア「ナポレオン」)の恋愛コラムが元になっています。ご友人のライターの方が「メレ山さんもぜひ」と編集部に推薦されたそうですね。

 最初に「モテ」がテーマと聞いて、「モテってどういうこと?」と多少引く気持ちがありましたね。モテるとはつまり、不特定多数の人からどう関心を集めるか、ですよね。たとえば、婚活がテーマのブログを読んでみると「最初のデートでは相手をびっくりさせないようにおとなしくて女らしい服を着ましょう」みたいなことが書いてある。最初から目指すところが違うからと言えばそれまでですが、個人的にはそういう個性を矯める方向に誘導する言説はあまり好きではないというか、違和感がありました。でもそう思うならそう思うなりに、恋愛について考えるところを書いてみようと思ったんです。

――タイトルの「こいわずらわしい」について聞かせてください。

 連載の時は「蝙蝠はこっそり深く息を吸う」(※)というタイトルでした。本にするにあたって、編集者と「恋愛の本とひと目でわかるようにしたいよね」と話したんですがなかなか決まらなくて、一時期は仮タイトルが「恋愛万事塞翁が馬」でした(笑)。本気でそのタイトルで出そうと思っていたわけではないですが。

 恋愛のいいところも悪いところも書いてある。恋愛したいような、したくないような、揺れ動く心情を表したいなと考えた結果、「恋わずらい」と「わずらわしい」のダブルミーニングである『こいわずらわしい』になりました。法律などでよく使う「故意または過失」にかけて「恋または過失」という案もあったんですが、別に道を誤った恋について書いているわけでもないよね、と(笑)。

(※:鳥と獣のあいだでどっちつかずの象徴のように言われる蝙蝠と、ご自身の恋愛への思いをなぞらえたとのこと)

――恋愛を「わずらわしい」と感じるのはなぜでしょう?

 自分の過去の恋愛の思い出を振り返った時に、みっともなくて思い出したくないことが多いんです。特に別れる時はだいたい喧嘩別れになってしまいます。お互いの嫌なところを見てしまって、二度と会いたくないとさえ思ったりする。恋愛しないほうが、過度な執着や期待を抱かない分、周囲と穏やかな人間関係を築いて生きていけるんじゃないか、と思うことがよくありました。

――恋愛は興味のある人だけが傷つく覚悟込みで参加する「エクストリームスポーツ」だとも書かれていました。たしかに、趣味のひとつだと考えると、気持ちが楽になる人も多そうです。

 「恋愛はみんながするものだ」とすることで、「趣味」としての恋愛が逆につまらなくなっているんじゃないかなと思います。恋愛をしたい人は好きに傷ついたり幸せになったりして、周りはそれにとやかく言わないような感じの世界をよく想像します。

 趣味の昆虫に関するイベント「昆虫大学」を開催するようになって、生きもの好きの人たちとの親交が増えました。生きもの好きの友達と一緒にいて楽なのは、年齢や性別・地位はある程度横に置いて「これ良いよね」「あれ面白い」というやりとりができること。恋愛をして、家族をつくって、家族の単位を中心に生きていくことが自分にとって必修科目でなくなってからは、わりと満たされた状態になりました。そうなってはじめて「それでも恋愛したいこの気持ちは、どこから来るんだろう」と考えるようになったんです。

微妙なデートの話、中間色のような話

――恋はわずらわしい側面もあるものの、恋愛の話を聞くのはお好きだそうですね。はっきりとしない中間色のような関係性のお話も好きだとか。

 誘っているのか、誘ってないんだか、よくわかんないとか、微妙なラインの話を聞くのが面白くて。もしかしたら恋愛に限らず、微妙な力関係の話を聞くのが好きなのかもしれないですね。

 (巻末収録の)穂村弘さんとの対談でもそんな話題が出ました。穂村さんは昔、いい感じで付かず離れずの関係性の女性がいたそうなんです。しかしある日彼女からメールがきて、最後に「すみません、恋人ができてしまいました。裏切ってごめんなさい」とあった。全部なかったことにもできるのに、これまでいい感じだった二人の関係は認めてわざわざ謝ってきた。穂村さんはその率直さがかっこよくて、もっと好きになってしまったとお話しされていました。言葉にはしていないけれど、お互いは「いい感じだな」と思っていた。そういうはっきりしない関係性って面白いなと思うんですよね。

――本書の前半は周りの人たちの恋愛ウォッチングが中心ですが、後半の書き下ろし部分では、メレ山さんご自身が恋愛当事者になっていくという急展開でしたね。南の島からやって来た彼とのコロナ禍の同棲生活、その後の遠距離恋愛のエピソードが書かれていました。恋愛することの楽しさや醍醐味とはどんな点だと思いますか?

 連載から本になるまで時間が空いていたんですが、まとめ直してるうちに、彼氏ができました。ちょうどコロナが大騒ぎになってきた頃の話だったので、自分としてはこの状況を書き残しておきたいなという気持ちもあったんです。ほぼリアルタイムで、ドタバタしながら書きましたね。

 楽しさや醍醐味は……やっぱり恋愛をすると、人の心に触れる瞬間があるからでしょうか。怖い、恥ずかしいといった気持ちを超えて、それでも踏み出さずにはいられないところが、感動につながりやすいのかなと思います。その恋愛も、長く続くと生活の一部になってきてしまう。それはそれできっといいものだと思うんですけど。やっぱり恋愛が始まる瞬間のあの高揚感については書いてみたいと思っていました。

昆虫大学は性別から自由な場所にしたい

――メレ山さんが開催している「昆虫大学」は、虫の研究者やクリエーターが集まって、虫にまつわる展示・販売や講演などをするイベントです。男女関係なく好奇心を満たせる場所にしたいとのことですが、その背景には、どのような思いがあったのですか?

 東京大学在学時に、女性と男性の扱いの差に違和感を感じた経験があって。最初に違和感を覚えたのはサークルでした。(他大学の学生も参加できる)インカレのテニスサークルが、男子は東大生限定なのに、女子は東大生お断りなんですよ。他の女子大から駆り集められた女子は、見た目の華やかさやかわいさをまず求められる。東大男子は男子で、「優秀な男」としてちやほやされようとする。そんな構図が露骨すぎてすごいなと思いました。今もそういうサークルはあるようで、大学は推奨しないという声明を出したようですが。

――昆虫「大学」としているのは、大学の理想的な姿がそうであるように、男女関係なく人として尊重される場所にしたいという思いがあるのでしょうか?

 最初はそんなつもりはまったくなかったんですが、私は大学で熱心に勉強せず、なんとなく卒業してしまったので、アカデミックな世界にコンプレックスがあるんだと思います。

 虫の先生を尊敬する気持ちが強いのも、学問をちゃんとやってきた人に対する憧れがあるんですよね。それで虫のイベントを始める時に、研究者の方に虫の魅力を教わるんだから、昆虫大学にしようと思いました。

 でも実際にやってみると、いわゆる「学問をする」という雰囲気ではないですけど、そこで凄く楽しそうにしている人たちをたくさん見ました。性別や年齢から自由で、教養や知的好奇心を大事にできる場所になりました。そういうところが大学のいい一面なのではないかなと、あとから思ったんですよね。

 女の子のお子さんを連れてきてくださる親御さんも多くいます。虫が好きな女の子は、変わり者扱いされてしまうことも多いんです。でも昆虫大学では、みんなが虫の話をしてくれて、それを楽しく聞いている。親御さんに「娘は普段はアウェイだと感じることも多いはずだけれど、ここでは生き生きしています」と言っていただいたこともあります。コロナで延期せざるを得ない状況ですが、自分にとっても大事な場所なので、今後も続けていきたいなと思っています。

恋愛エッセイを執筆したあとに

――今後も恋愛について書いていきますか?

 こういう話はもしかしたら、創作のほうが面白く書けるのかなと思っています。小説だったら書きにくいことも書けるかもしれない。共感してもらうことも考えなくてもいいかもしれない。何年も前に「小説を書きませんか」と言われたことがあるんですけど、ずっと書かないまま過ごしてしまって。いつか書いてみたいなと思っています。

――どんな小説に興味がありますか?

 恋愛までいかない人間関係の話、あとは女の人が働くことをテーマに書いてみたいです。津村記久子さんの小説が凄く好きなんです。『この世にたやすい仕事はない』や『アレグリアとは仕事はできない』など、働く人の心の機微の表現が絶妙です。好きでも嫌いでもないけど信頼はしている関係性とか、仕事ならではの「心が救われる瞬間」ってあるなと思います。

――他に今後の執筆活動のご展望はありますか?

 好きなものと住まいの関係に興味があります。自分にとって身近な趣味、たとえば生きもの関係の趣味を持つ方のお宅を訪問取材した本などは作ってみたいです。家が標本のコレクションでいっぱいの人とか、飼育に耽溺している人とか。人としての面白さが家に表れている人っていると思うので。

 とはいえ、一番書かなさそうだと思っていた恋愛の本を書けたので、なんでも書いてみれば楽しいんじゃないかなと思っています(笑)。これからも苦手意識を持たずに、どんどん書いていきたいです。