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「ほねがらみ」芦花公園さんインタビュー 投稿サイトから生まれたホラー小説、一部は実話も…!?

文・写真:吉野太一郎

仕事の合間にスマホで投稿

――夜中に一人で部屋で読んでいたら、猛烈に怖くなりました。スマホが震える音ですら心臓が止まるかと思いました。

 ありがとうございます。怖がっていただけてよかったです(笑)。

――話者も時代背景もバラバラだと思っていた短い話が重層的に絡み合い、最後に一つにまとまっていく、推理小説みたいな展開でした。どんなきっかけでこういったストーリーを書こうと思ったんですか?

 実は最初は、短編だったんですね。冒頭の「読」と「語」と「見」の章は、それぞれが独立した短編で、一切つながりなく書いて、「カクヨム」で全部別々に公開していたんです。それを長編にしようと考えて、「編」の章以降を書き下ろしてつなげた感じです。「読」「語」「見」の章の最後では、主人公「私」が登場して、集めた怪談の感想を書いて回収されていく構成になっていますが、最初はそれもありませんでした。

――そもそも、小説を書こうと思ったきっかけは?

 一切、書いたことなかったんですが、2018年6月にTwitterのフォロワーさんに誘われて書き始めたんです。プロデビューしたラノベ作家さんらが入っているグループがあって、そのメンバーの一人に「書いてみると楽しいよ」って言われて。ただ、仕事も忙しかったので、ちゃんと向き合って書く時間があまり取れない時期がありまして、仕事の合間にスマホで「カクヨム」の投稿画面に直接打ちこんでました。

――それがネットで評判になった。

 「読」をカクヨムに公開していた2019年9月に、「金の卵」という、カクヨム公式が月1回、全ての作品の中からピックアップして褒める企画に選ばれました。その翌年、インフルエンサー的な方が絶賛してくださって、2020年8月の4日から6日にかけてネットで急にバズり、その2日後に幻冬舎さんからお話をいただいたので、書籍化となりました。

――ネットの反響は予想していたものだったのでしょうか?

 思ってもいませんでしたね。あまり読者のことを考えず、自分が好きなものを書いていただけなので。

――どんなところが受けたと思います?

 謎解き要素があるところなのかな。ああでもない、こうでもないと自分たちで考察して、ネットに投稿していくのが好きな人たちに刺さったのかなって思いました。おそらくあまりホラー小説を知らないライトな層に受けたんじゃないかと思います。

作品は三津田信三リスペクト

――もともと幼い頃から怪談がお好きだったんでしょうか。

 そうですね。「はじめに」に書いてある主人公「私」の生い立ちは、自分の体験に近いです。最初は「ゲゲゲの鬼太郎」のアニメでしたね。1996年に放映された「第4期」という、妖怪のおどろおどろしさを前面に出した原点回帰として、すごく評価が高いシリーズなんです。で、水木しげる先生の漫画に興味を持ちました。

 そこからホラー漫画とかを読むようになって、楳図かずお先生の『赤んぼ少女』から、今度は小説に行って、最初に選んだのは、貴志祐介先生の『天使の囀り』(角川ホラー文庫)ですね。

 映像だと、ジェームズ・ワン監督の「死霊館」シリーズ。霊能者夫婦が心霊事件を解決していくというストーリーで、脚色はあるものの、実話だそうです。驚かせ方がかなり直接的なんですよね。「気づくと、後ろで何か動いている」とかじゃなくて、獰猛に襲ってくるんですけど、それがすごく怖い。アリ・アスター監督の映画も好きです。私の小説は、わりと、映画の影響が大きいような気がします。

――影響を受けた小説家はいますか?

 三津田信三先生と、朱雀門出先生です。三津田先生は、民俗学から何から本当に深い知識をお持ちで。主人公は「三津田君」つまりご自身で、編集者といろんな怖い話を考察していくうちに、やがて1個の大きな事件にぶち当たるというドキュメンタリー形式のホラーに定評があります。朱雀門先生は隣人が狂っていくといった、不思議な作風の小説をたくさん書いている方。このお2人が、私にとっての2大柱でしょうか。

 そして、やっぱり小説として読むのは、三津田先生が好きなので。本当によく調べていらっしゃって、小説なのに実話っぽくて、私もこういうのを書いてみたいと思って長編に挑んだ感じですね。

――「怪談を収集するのが好きだ」という「私」の設定も、ご自身?

 はい。というより、勝手に集まってくるんですね。私が「ホラーが好きだ」って言うと、知り合いが勝手に話してくるんで、ありがたく聞いてました(笑)。

 実は『ほねがらみ』の中には実話もあって、具体的に言うと「読」の章に出てくる、橘雅紀少年が目撃した白く光る人影の話と、「語」の章のお葬式で、両手足のない女が迫ってくる話。かなりアレンジ加えてるんですけど、実話ベースです。

――え、そうだったんですか(怖)。

 ちょっとズルいでしょうか(笑)。

――スマホで投稿するのと、長編にまとめていくのは、全然違う作業だと思ったりしませんでした?

 たしかに、ネットと紙は全然違うというのが、今回書籍化していただいてよくわかりました。ネットだと基本的に横書きで、クリックするごとに画面が切り替わるので、展開や場面が変わったというのが分かりやすいんですけど、紙の場合、ページをめくってると、今、誰が話してるのか、誰の目線で書かれているか、ということが分からなくなったりするんですよね。書籍化にあたって、デザイナーさんがいろいろ考えてくださって、フォントを変えたり、デザインも工夫していただきました。

「暴走するシステム」が鍵に

【注意】ここから先は「ほねがらみ」のネタバレを含みます。

――いろんな伏線を張り巡らせていますが、私もすべて回収できていません。まず、最後に書かれた呪文の話です。

 これは「蛇よけの呪文」と、「不動明王生き霊返し」というイザナギの呪文、そして聖書の「ヘーレム」(聖絶、神に捧げられたもの、呪われたもの。人間である場合は必ず殺されなければならず、古代には多くの虐殺が起きた)を交ぜたものです。

――蛇は、物語の鍵を握る橘家につながっていくんですよね。土着信仰を巡る民俗学的な背景も登場して、映画「死国」を思い出します。

 解釈は読む方の自由なんですけど、民俗学はエッセンスというか、要素のひとつでしかないので、あくまで三津田リスペクトです。全体を貫く要素は「暴走するシステム」というテーマ。人間が作った機械が、人間の意思に反して暴走してしまうことがあるように、人間が信じたからできてしまった「なかし」というシステムが暴走してしまったという話です。

――終盤で「なかし」という壮大なシステムが明らかになりますが、参考にしたものはあったんですか。

 聖書ですね。小さい頃からキリスト教がずっと身近にあったので、染み付いてるところはあると思います。かと言って、キリスト教で言う「死後に天国へ行く」といったことはあまり信じてなくて。まあ、「死んだらそこで終わり」の方が楽じゃないですか。

――「なかし」は「私」に「拡散しなさい」と命じます。これはどういう意味なんでしょう?

 「なかし」という存在は、医者は生かして拡散役にするんですよ。だから「私」の後輩で姿を消した水谷は、医学生で医者じゃなかったから、「なかし」の存在に気づいてどんなに真理に近づいても「なかし」のシステムに組み込んでもらえなかった。橘家も全員、医者じゃないし、旅行に行った医大生たちも、みんな医者じゃないので、結局、死んでいるんです。

――なぜ医者だけを?

 蛇はギリシャ神話に登場する名医アスクレピオスの杖に絡みついているように、昔から医療や知恵のシンボルでもありました。そういった層を「なかし」は選びとっているという裏設定があります。

「今も実感なくて」

――2作目も出版されますね。

 そうですね。幻冬舎さんからお話があった後「カクヨム」に連絡したら、角川ホラー文庫の編集長から「こちらでも書籍化の話が上がっております」と言われ、KADOKAWAさんでは書き下ろしを書くことになりました。

――どんな話なんですか?

 「カクヨム」さんで半分まで読めるんですけど、何をやってもうまくいかない就職浪人生の笑美が、運よく食品メーカーに採用されるのですが、どうもそこでは怪しげな儀式が行われていて……彼女の兄から相談を受けた男女2人組が解決に向けて東奔西走する、という話です。

――今後もホラー小説を書いていきますか?

 機会を頂けたら、ですね。作家デビューするなんて本当に思ってなかったですし、小説家をめざしてずっと書いていたというわけではないので、今も実感がなくて。お仕事もらえたらいいなって思ってますけど。