1. HOME
  2. インタビュー
  3. リーダーたちの本棚
  4. ファミリーマート 代表取締役社長 細見研介さんの本棚 人生のキーワードは「旅」と「冒険」
PR by 朝日新聞社 メディアビジネス局

ファミリーマート 代表取締役社長 細見研介さんの本棚 人生のキーワードは「旅」と「冒険」

冒険物語に魅せられ情熱をかき立てられた

 ファミリーマートの社長に就任する以前は、親会社の伊藤忠商事にいました。商社に入ったのは、世界を見てみたいという心の欲求があったからです。その原点は、少年時代の読書だったと思います。図書室の本のほとんどに目を通すほど読書が好きでした。気に入って何度も読んだのは、『ツバメ号とアマゾン号』(岩波少年文庫)。イギリスの4人きょうだいが小舟に乗って無人島を冒険する物語です。改めて振り返ると、「旅」や「冒険」は私の人生のキーワードで、高校生の時には冒険家として知られる植村直己さんの自伝『青春を山に賭けて』に若い情熱をかき立てられました。植村さんの青春時代は、ほぼ無一文でアメリカに渡って農園仕事に汗を流したり、スキーができないのにフランスのスキー場でがむしゃらに働いたりと、冒険費用を稼ぐところからチャレンジの連続。その行動力とピュアな冒険心は、今読んでも心引かれます。 

 『アルケミスト 夢を旅した少年』は、人生のエッセンスが詰まった旅の物語。主人公の少年は、ピラミッドの近くに眠る宝物の夢を見てエジプトに旅立ちます。道中多くの困難がありますが、錬金術師(アルケミスト)から“前兆”に従うことを学び、宝物の正体を知ります。“前兆”はあらゆる出会いや経験を示唆していて、自分を取り巻くすべてのことに何かしらの意味があり、今を懸命に生きれば、不運さえも夢の実現を助けるというストーリーです。30年以上前に書かれた名著ですが、コロナ禍に苦しむ今の私たちに、ポジティブな生き方を示してくれているように思います。

湯船に浸かりながらモノの歴史を1点ずつ

 『100のモノが語る世界の歴史』は、大英博物館が所蔵する100点のモノを通じて世界の歴史を旅することができる全3巻のシリーズです。元同館館長のニール・マクレガーによる解説は読み応え十分で、私は湯船に浸(つ)かりながら毎日1点ずつ繰り返し読んでいます。最近テレビで、イギリスのサットン・フー遺跡を巡る実話に基づいた「時の面影」というドラマを見たのですが、サットン・フーで発掘された黄金の甲冑(かっちゅう)についても本書で読んでいたので、ドラマをより楽しめました。本書で扱うモノは、質素な道具から偉大な芸術作品まで幅広く、人類の営みを想像させます。例えばタンザニアのオルドゥヴァイ峡谷から出土した180万〜200万年前の石のチョッピング・トゥール(礫器(れっき))は、石の塊を別の石に打ち付けて刃のような断面にしてあり、肉を切ったり骨を砕いたりしたと想像できます。同じ峡谷から発見された120万〜140万年前の握斧(あくふ)は、先の礫器よりも加工が精緻(せいち)で、著者は言語の発達が加工技術の伝承につながったと推測しています。今はITテクノロジーの発達によって人を介さない技術の伝承が可能な時代です。となると、人づてに伝わる文化はもはや退行期にきているのではないか。ふとそんなことも考えました。本書をきっかけに、旅好きが高じてオルドゥヴァイ峡谷にも行ってきました。サバンナの風景は不思議と懐かしく、人類発祥の地ともいわれる場所でデジャヴュのような感覚を味わいました。

 サリンジャーの『フラニーとズーイ』は、村上春樹氏の訳が秀逸です。エゴだらけの世界に憤り、宗教書に救いを求め、知的な隘路(あいろ)に迷い込む大学生のフラニー。その苦悩がわかるからこそ、言葉を尽くして妹を救おうとする兄のズーイ。メタファーを駆使して両者の心情を天衣無縫に綴(つづ)る文章は、まるで絵画のよう。妹を思う兄の優しさが繊細に描かれた小説で、いつ読んでも心が温かくなります。

 リーダー論として共感したのは、唐池恒二氏の『逃げない。 リーダーに伝えたい70の講義』。唐池氏は、JR九州の多角化に挑戦し、博多港〜釜山港の高速航路の開設や、外食事業の経営などに手腕を発揮されました。いかに夢を持つことが大切か、いかに夢を組織に伝播(でんぱ)させ、逃げず、あきらめず、信念を貫けるか。経験談を交えての言葉の数々が胸に響きました。唐池氏は「ななつ星 in 九州」の立ち上げにも活躍されました。憧れの列車ですが、私はまだ乗ったことがありません。細部まで配慮が行き届いたもてなしを心から満喫するには、まだ人生経験が足りないと思っているので、15年後くらいのお楽しみにしています(笑)。

 好きなワインの本など、趣味に関する読書も多いです。最近のお気に入りは、ニューヨークの街を撮り続けたソール・ライターの写真集。ニューヨークは商社時代に何度も赴いた大好きな街。街への愛情が感じられるライターの写真は、見ているだけで優しい気持ちになります。

 私は長く単身赴任生活が続いていて、今年で11年目。週末のひとりの時間は、料理をしたり、ベランダの植物の世話をしたり。あとはやっぱり読書です。(談)

細見研介さんの経営論

 今年9月に創立40周年を迎えるファミリーマート。40周年にちなんだ「40のいいこと!?」キャンペーンや店舗のデジタル化、SDGsへの取り組みなど、様々なチャレンジを日々続けています。

変化はチャンス スピーディーに対応していく

 「あなたと、コンビに、ファミリーマート」というコーポレートメッセージのもと、人と地域に寄り添う店づくりを国内外で展開しているファミリーマート。創立40周年の節目に社長に就任した細見研介さんは、抱負をこう語る。

 「社会のあり方が激変している中で、大事な節目を迎えます。新型コロナウイルスの感染拡大により、テレワークが増え、都市部から人が減り、外食が減り、家での食事が増えています。変化のスピードはデジタル化とあいまって加速しており、コンビニ、スーパー、ドラッグストア、さらにはeコマース間の競争が激しくなっています。この変化をチャンスと捉え、地域それぞれに異なるニーズ、多様化するライフスタイルにスピーディーに対応していきたいと考えています」

 40周年に向けたチャレンジとして「40のいいこと!?」というキャンペーンを始動。「もっと美味(おい)しく」「たのしいおトク」「食の安全・安心、地球にもやさしい」などのテーマを掲げ、オリジナリティーのある提案をしている。例えば「ファミマフードドライブ」は、家庭で余った食品(未開封で破損していないもの。賞味期限まで2カ月以上あるもの。常温保存のもの)を店舗で回収、自治体やNPOなどと連携して支援が必要な人々に届ける仕組みで、子どもの食支援や食品ロスの削減に寄与している。

 店舗のデジタル化にも力を入れる。無人決済システムの導入店では、手に取った商品の金額が店内のカメラや棚の情報から計算され、セルフで迅速に会計を済ませることができる。
「新型コロナウイルスの感染拡大による大きな変化の一つが“非接触”へのニーズの高まりです。無人決済システムは、非接触や時間短縮に加え、省人化を可能にするので、店舗オペレーションの負担軽減にもなると期待しています」

地域の拠点としての機能を強化

 コンビニの未来像について、細見社長は次のように語る。

 「“地域の拠点”としての役割が一層増していくと思います。例えばファミリーマートの子会社シニアライフクリエイトは、現在400カ所の市町村行政から業務委託を受けてシニアに向けたお弁当の宅配を行い、約10万人のお客様にご利用いただいています。例えばご高齢でもお元気であれば、ファミリーマートをお弁当の受け取り拠点にしていただくことで、毎日の運動や健康づくりの応援ができると思います。規制緩和が進めば、薬の受け取りなどの機能も果たせるかもしれません。そうした1歩踏み込んだ独自の提案を模索していきます」

 細見社長の若き日は、「単身でガンガン営業をかけるタイプ」だったとか。やがてチームワークの強さを覚え、40代にはアメリカのブランド「レスポートサック」の買収に成功した。

 「3年がかりのマラソン交渉で非常に苦労しましたが、あらゆるルートを駆使して買収に臨み、全世界の商標権と販売権を取得。絶対にあきらめないことの大切さを学びました」

 挑戦している時がいちばん楽しいと語る細見社長。好きな言葉は、「Go where nobody has gone, Do what nobody has done.(誰も行ったことのないところに行け。誰もやったことのないことをやれ)」。経営信条でもあるという。

細見研介代表取締役社長の経営論 つづきはこちらから