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絵本作家・ヨシタケシンスケさんと音楽家・椎名林檎さんが初対談 私たち、あんなに大人が嫌だったのに

左から、椎名林檎さん(ユニバーサル ミュージック提供)、ヨシタケシンスケさん(帆刈一哉さん撮影)

若い世代にはツンとしていてほしい

――今月、椎名さんはバンド「東京事変」の新譜『音楽(ミュージック)』を、ヨシタケさんは新刊『あんなに あんなに』を発表しました。

椎名林檎(以下、椎) ヨシタケさんの絵本、ずっと読んでます。お会いできると聞いて子供たちがびっくりしていて。新刊は本当にずるい、というか。すばらしい。

――子供の成長を母親の目から振り返った絵本。「あんなに××だったのに」と、子育てに追われた日々を振り返り、ほろっとさせるだけでなく……。

ヨシタケシンスケ(以下、ヨ) ずるい、はうれしいですね。

 “ずるい”といっても“いやらしい”でなく。

 褒め言葉として響いておりますよ。

 表現形態としては離れているけれど、この本の一つのページのような瞬間を、たとえばライブのときも、お客さんにポーンと印象づけたくて。しかも、最後の絵がまた……。

 美談で終わらせてなるものか、と。

 意地でもね。それも最後の一枚だけで。もしここでじめっと湿度が上がったままで終わったら、何回も読まないですよね。私も目指してるんですよ。ライブのセットリストとか、一曲一曲のアプローチで。“ずるい”ものを作りたいけど、すごく難しい。ずるいと思うのは、送りたいメッセージ自体が近しいからじゃないかな。社会に対してだったり、親子に対してだったり。

ポプラ社・1320円

――ヨシタケさんは、椎名さんの作品のどこにひかれますか。

 最初のアルバム(『無罪モラトリアム』)から持ってます。『音楽』を含めて作品からイメージするのは“かっこよさ”。思いもよらない言葉とアプローチで感情や人間を肯定してくれる感じが、とても好きです。純粋にすごいなと楽しめる。椎名さんのように何でもできる人、絵でいえば油絵も水彩画もかけるし、彫刻もうまい人が、どうやって表現方法を選んでいるのか不思議なんです。

 難しいですが、仕事の選び方や書き方は、はっきりしてます。わくわくするかどうかですね。

 昔はアーティストが自分の好きなことしかやりたくねえ、とか言ってるのをきいて“かーっこいい”とか思ったんですけど。

 あら、揶揄(やゆ)ですか(笑)。

 揶揄と憧れと嫉妬をひっくるめて(笑)。ただ自分が発表する側になったとき、あの言葉の意味がわかりました。そうしないと自分も守れないし、周りも守れない。

「いつかわかる」を翻訳できたら

 ところで小中学生のときにかっこよかった大人といったら誰ですか。

 1990年代、小中高の頃は大人が嫌で嫌でしょうがなくて。ほお骨のチークとかのメイクも嫌で。浮かれてるみたいで。

 大人に対し憎しみがあったというのは大事なことですよね。

 ほんとですか?

 好きなものってころころ変わるじゃないですか。でも憎しみって、長いこと人を律し続ける。あんなの絶対やらないとか、ああいうことを言う大人には絶対なりたくないとか。

 といっても、すごく表面的だったんですけどね。美意識の芽生えだったのかもしれない。何を知ってるわけでもないのに、非常に空疎な時代の浮かれポンチみたいに思ってたんです。

ユニバーサル ミュージック・3300円(通常盤)

――『音楽』にも、相いれない社会や大人との闘いのようなものを感じました。

 アルバム前半の曲は、若い世代にこうあってほしいとの思いで書いたリリックです。大人の顔色など探らず、全能感を謳歌(おうか)しまくる感じでいてほしい。ツンとしていてほしくて。

 わかりやすい言葉ですね。

 若い方のエネルギーは全世代を圧倒してくれる。なのにそれをできなくさせるのは大人として嫌だし。どうしたらいいんだろう。

 学校の先生方が、今の若い子たちはすごくいい子だけどいい子なだけと言うのを聞くにつけ、僕がそういう人間だったので、気持ちがわかる。生まれたときから周りになんでもあるなかで、ハングリーになれと言われても、おなかいっぱいですと言いたくなる。

 そうなの。そういうのちょっと結構です、という感じだった。

 でも、何かを働きかけることができる側になったときに、少しでも表現することの面白さを伝えたい。人前で何かを見せて、リアクションがあった時の、うれしさだったり、悔しさだったり、恥ずかしさだったりがないと、人が作ったものを見る姿勢ってできない。

 私は自分が言われて嫌だったのに、同じことを若い人に言っちゃってる。「思い切りやっちゃえよ」なんて、言われたときに反発したのに、大人になると急にポンとわかって。大人と若者はかみあわないやりとりを200年くらい前からずっとしているわけで、愚直に、親知らず子知らずを伝承していかなきゃいけないのかな。

 子供のころに言われて嫌だった言葉に「おまえも大きくなればわかる」。

 それそれ。

 イラっとするわけですよ、いま知りたいんだよと。でも大人になったら本当にそうなんですよね。絵本を書くのは、それを直接言うんじゃなくて、もうちょっと翻訳して伝えられないかなと。いつかわかるって、つまりこういうことだと思うとか。その目標は似てますね。

 いまの話はお会いする前から作品から感じとっていたから、そうだよなと面白く思いました。=朝日新聞2021年6月30日掲載