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しまだともみさんの絵本「ドアをあけたら」 予想もしない動物が現れて、びっくり

「穴あき窓」が想像力を刺激

――「穴あき窓」からちらりと見える姿はカエルさん。でも、ドアを開けるとお部屋にいるのは……。ページをめくると、予想外の動物が現れ、驚きを生む『ドアをあけたら』(東京書店)。『へんしんれっしゃ』や『おべんとうかいじゅう』(いずれも東京書店)など、数々の個性的なしかけ絵本を送り出してきたしまだともみさんが、絵本作家デビュー当時、初めてチャレンジした「穴あき絵本」だ。

窓からのぞいているのは、カエルさんとシルクハット? その正体は……。『ドアをあけたら』(東京書店)より

 『ドアをあけたら』は、デビュー作『イーラちゃんはおうさま』(偕成社)と同時期に制作した、私にとって初めての「しかけ絵本」。東京書店の編集さんから「ドアを開けたら、窓からちらりと見えていたのとは全く違う動物だった」というしかけで絵本を作ってみませんか?と、窓の部分がくり抜かれた真っ白な見本を渡されたのがきっかけです。それまでしかけ絵本を作ったことはなかったのですが、「これはやるしかない!」と思い、チャレンジしてみることにしました。

 「動物のある部分がほかの動物に見える」というテーマに合わせて、動物図鑑を眺めながら、ああでもない、こうでもないと思案する日々。当時7歳だった息子にも試作品を見てもらって、「カバのおしりはゾウには見えないよ〜」など、アドバイスをもらいました。息子の落書きからアイデアが生まれたシーンもあります。

 息子のサッカークラブの送り迎えなどのすきま時間に、動物の組み合わせをパッと思い付くことも。動物の体の一部分だけでなく、部屋のなかにあるカーテンや帽子などの小物も取り入れて構成すると面白いと気づいてからは、制作スピードがぐっと上がり、2週間くらいで最初のラフを作り上げました。

 思い返せば、子どものころから「あの葉っぱは、人の顔みたいだな」「天井の模様がオバケみたい」など、「何かに見立てる」遊びを日常的にしていたんですよね。『ドアをあけたら』も同じように、まず頭のなかで動物を思い浮かべて、「どの部分を切り取ったら、何に似ている?」と想像しています。絵に描きながらの作業では、逆に発想が固まってしまうからダメなんです。「おしりの部分だったら、カーテンでいけるかも」「あ、ちょっと振り返ってもらおうかな」など脳内でいろいろ動かしていると、アイデアが次々に湧いてくる。散歩中にこの「想像モード」に入って、思ったより遠くまで歩いてしまって帰るのが大変だったこともあります(笑)。

苦労した「こおりの おうちに パンダさん?」のページ。シャチなどさまざまな白黒の動物を組み合わせて、試行錯誤した。外にある「パンダの雪だるま」もポイント。『ドアをあけたら』(東京書店)より

「何度読んでも面白い」絵本に

——南の島、南極、サバンナ……おうちがある地域もさまざま。外観や部屋のインテリアも細かく描き込まれ、すみずみまで読み込む楽しさがある。

 右に「しかけ」があるので、どうしても右ページに読者の意識が向いてしまいがちです。左ページをどう楽しく見せるかが、当初の課題でした。とにかく単調にならないようにと、それぞれが住む「おうち」の場所や外観をバラエティーに富んだものにしました。もともとインテリアを考えるのが好きなので、「この子はどういうおうちに住まわせようかな」と描くうちに、どんどん凝ったディテールになっていきました。

 しかけ絵本ってどうしてもインパクト重視の部分があると思うのですが、「一発ギャグ」のように、最初の驚きだけで終わらせたくなかったんです。子どもたちが飽きずに読める絵本を作りたかったので、何度も読まないと気づかないような小さな「遊び」を随所にしかけています。よ〜く家のなかを見てみると、ほかのページに出てくる動物さんが友だちだと分かるような小物が飾ってあったり、ヒツジさんが編んでいるものが、後のページに登場するペンギンさん親子へのプレゼントだったり。こういう細かいしかけについて、子どもたちはすぐに気づいてくれるんですよね。

 それから、しかけを楽しむだけでなく、ストーリーのあるひとつの物語としても読んでもらいたかったので、「サーカスの夜」のシーンをクライマックスに、お日さまが顔を出してから日が暮れるまで、一日の出来事だと分かるように各ページの背景を描いています。オウムのママさんが子どもたちをしっかりお昼寝させているのは、夜のサーカスに連れていくからなんですね。サーカスの場面では、これまで出てきた動物さんたちが全員集まって、フィナーレとなります。私のしかけ絵本は、だいたい「キャラクターが最後のシーンで大集合する」のですが、その“お約束”はここからスタートしました(笑)。

「子どもが小さいときってやっぱり大変。後から振り返ると一番いい時期だったな、と思えるんですけど」としまださん。“子どもたちが昼寝している間、ひとり時間を楽しむオウムのお母さん”の絵には、子育て世代へのエールが込められている。『ドアをあけたら』(東京書店)より

シリーズ続編は「海」が舞台

——7月には待望の続編、『ドアをあけたら うみのおうち』を発売。新作のテーマは「海の生き物」だ。

 これまでは常に「新しいしかけ」に挑戦することを優先してきたのですが、海を舞台にして『ドアをあけたら』の続編を描いてみたい思いは以前からあって。7年目にして、ついにそれをかなえることができました。前作では「カエルさんの おうちかな?」など、思考のヒントとなるような文章を入れていたのですが、新作では「めくる前は何に見える」といった文は一切入れず、すべて読者の想像力に委ねるようにしています。

バラエティー豊かな「海の生き物」が登場する最新作。『ドアをあけたら うみのおうち』(東京書店)より

 代わりに入れた文は「トントン ドアを あけたら」。読み聞かせをするときに子どもたちと一緒にせーの!で「トントン」とドアをたたく真似をしてからページをめくると、「わあ〜!」と盛り上がるんですよね。『ドアをあけたら うみのおうち』には、イソギンチャクのおうちも出てくるので、「このドアはどんな音がするのかな?」「ポニョポニョかな、プルンプルンかな?」など、親子で考えてみるのもいいですね。

 繰り返し読んでいると子どもたちも「正解」を覚えてしまいますが、そんなときは、より想像力を働かせる語りかけをしてみると、また違った楽しみ方ができます。たとえばしかけをめくる前に「キリンさんのおうち!」と子どもが当ててしまったとき。「じゃあ、ドアを開けたら、キリンさんはどんなポーズをしているかな」「キリンさんのどの部分が見えていると思う?」と、重ねて聞いてみるんです。そうすると、「首を曲げているんじゃない?」「きっとこんな形をしていると思う!」など、いろんな意見が出てくる。「お部屋にはどんなものがあったかな?」など、なかの絵を想像してもらうと何度でも楽しめると思います。

 『ドアをあけたら うみのおうち』は「海しばり」の続編ということで制作のハードルも上がりましたが、見立ての面白さの部分でパワーアップできたかな、と感じています。『ドアをあけたら』や『へんしんれっしゃ』のキャラクターやアイテムもこっそり再登場しているので、ぜひ探してみてください。

(文・写真:澤田聡子)