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出会いと成長、夏の物語  今こそ子どもに読んでほしい、オススメの8冊

翻訳家・さくまゆみこさんのオススメ

 「月にトンジル」(あかね書房) 小6の徹は幼稚園から仲良しの4人グループ「テツヨン」は永遠だと信じていた。ところが、いつも明るい大樹の引っ越しを機に関係がぎくしゃくし始める。テツヨンは解散か? 徹は悩む。けれどもやがて、成長には苦さもついて回ること、人には表に見せない面もあることに気づき、徹も自分の一歩を踏み出す。徹の祖父の言葉から取った書名の意味は、本を読むとわかるよ=小学校高学年から(佐藤まどか作、佐藤真紀子絵、1430円)

 「?あつさのせい?」(福音館書店) ここは、暑い盛りの動物の町。暑いと頭がきちんと働かないので、うっかりもぼんやりもしょっちゅう起こる。馬は駅のベンチに帽子を忘れ、その帽子を拾ったキツネは駅のトイレにかごを忘れ、そのかごを拾ったブタは銭湯でシャンプーを忘れ……と連鎖はずっと続いていく。暑さに負けていない力強い絵が、動物たちそれぞれのクスッと笑えるユーモラスな姿を伝えている=5歳から(スズキコージ作、1320円)

絵本評論家・作家の広松由希子さんのオススメ

 「ぼくは川のように話す」(偕成社) 松の木の「ま」、カラスの「カ」……つかえてうまくいえない音がある。吃音(きつおん)に悩む少年が、川岸で父から言われた一言に救われ、視界が開ける。「おまえは、川のように話してるんだ」。波打ち、岩に砕けながら、海へ向かって流れる水の豊かなイメージ。少年の心の揺れを内側から見せる斬新な絵と、詩人の実体験が生んだ切実な言葉がひとつになった絵本だ。なめらかに前へ進めない人の気持ちに寄り添い力づける=小学校低学年から(J・スコット文、S・スミス絵、原田勝訳、1760円)

 「まっている。」(講談社) 緑の風を感じ、鳥や虫の声が聞こえる画面。ぼくはウキを見つめて魚がかかるのを待ち、クモはていねいに巣をはり獲物を待つ。色と香りをまといハチやチョウを待つ花、土の中で何年も時を待つセミの幼虫。自然のなかでは、待つことは必然。希望に向かい静かに待つ時間の豊かさを親子で思いたい。空も海も大地も待っている=4歳から(村上康成作、1540円)

ちいさいおうち書店店長・越高一夫さんのオススメ

 「縄文の狼(おおかみ)」(くもん出版) 赤ん坊の時、狼にさらわれ奇跡的に救い出された少年キセキ。きょうだいのように育った狼と犬との間に生まれた狼犬ツナグと共に、ある時激流にのみ込まれ、海辺の村で助けられる。移動する生活をしていたキセキにとって、定住する村人たちの暮らしは新しい発見がたくさんあったが――。自分も1万年前の縄文時代にいるかのような生き生きとした描写で、最後までドキドキ楽しめた=小学校高学年から(今井恭子著、岩本ゼロゴ画、1650円)

 「種をまく人」(あすなろ書房) ベトナムから米北東部の工業都市に移住してきた少女・キムは、空き地にライマメの種を植えた。それをきっかけに、周りに住んでいた人種も年齢も違う人たちが同じように種を植えていく。やがてゴミ捨て場だった空き地は、すばらしい菜園に生まれ変わる。13人の登場人物がそれぞれの話に少しずつ関わりながら展開していくところが見事=中学生から(ポール・フライシュマン著、片岡しのぶ訳、1320円)

丸善丸の内本店児童書担当・兼森理恵さんのオススメ

 「わたしのともだちポルポちゃん」(講談社) わたしのともだち、たこのポルポちゃん。お茶の時間も遊ぶのもどんな時も一緒。はずかしがり屋だけど勇敢なポルポちゃんとなら、なにが起きたってへっちゃらなんです。寄りそう姿はまるで絵画のよう。力強くて幸せそのものにみえます。こんなにお似合いな2人っていない! ただ2人を見ているだけで、ともだちっていいなって思えてくるのです=3歳から(もとしたいづみ文、北見葉胡絵、1485円)

 「ペンダーウィックの四姉妹 夏の魔法」(小峰書店) ペンダーウィック家の4姉妹は、美しいお城のようなお屋敷の中のコテージで夏休みを過ごすことに。姉妹たちのひと夏の成長の物語。個性的で生き生きとした4姉妹は本当に魅力的で現代版若草物語のようですが、もっとドタバタでユーモラス。太陽に向かって駆け出したい! 夏に期待してしまう一冊です=小学校高学年から(ジーン・バーズオール作、代田亜香子訳、1760円)=朝日新聞2021年7月31日掲載