誰もが知っているお笑い界の大スター。楽しげに仕事をする内村光良(ウッチャン)と仲間たちを見て、私もテレビ画面から目を離せなくなることがたびたびあった。その理由が解き明かされる一冊だ。
著者は内村と広告制作の仕事をする機会があり、その佇(たたず)まいに惹(ひ)かれ、本書の企画を思いついたという。ただし、本人のインタビューは一切ない。代わりに仕事の関係者人を取材し、その言葉を分析することで彼の仕事哲学や人柄を浮かび上がらせる。
見えてくるのは、誰よりも現場を楽しみ、カッコ悪いところも周囲に見せ、人の心にスッと寄り添う内村の姿だ。強烈なカリスマ性があるタイプではなく、上から指示を出し続ける旧来型リーダーとも違う。でも、どんなに年下の相手であっても、フラットに意見を求めて話をさせ、最後は責任を引き受ける。結果、内村の周囲には自ら考え、行動するチームが出来上がる。人が傷つくことに敏感なところや、完璧ではなく隙もある愛すべきリーダー像は、今の時代にぴたりとはまる。
若い頃の内村は人嫌いで引っ込み思案。リーダーとは真逆のタイプだったと明かされる。今からでも遅くないと思わせてくれるリーダー論だ。=朝日新聞2021年8月7日掲載