1. HOME
  2. コラム
  3. BLことはじめ
  4. 野ノ宮いとさん『はだしの天使』インタビュー “人間のフリして生活する人外”をBLに

野ノ宮いとさん『はだしの天使』インタビュー “人間のフリして生活する人外”をBLに

“人間のフリして生活する人外”をBLにしてみたら……

――初コミックスの刊行、おめでとうございます! 野ノ宮さんは、これまでイラストレーターとして活躍されてきましたが、初のBLコミックス執筆を経験して、イラストとは違う楽しさ、苦労などありましたか?(井上)

 ものすごく大変だったのが締め切りです。毎話間に合わなかったので担当さんに迷惑かけっぱなしの修羅場でした。イラストの仕事は全てきっちり〆切厳守できていたはずですが……。絵ばかり描いている者にとって、漫画を描くということはさらなる地獄を味わえることだと思いました。

――そんな壮絶な生みの苦しみを経て世に送り出されたのが『はだしの天使』だったとは……! 本作はこちらのイラストがきっかけで描くことになったとTwitterに投稿されているのをお見かけしました(岩本)

 はじめにBL執筆のご相談をいただいたとき、描きたいストーリーが特になかったのですが、ちょうどこのとき、次のイラスト集のテーマにしようと考えていたのが“人間のフリして生活する人外”でした。これをBLにするとどうなるかという衝動的な興味が湧いて、ネタとして描かせていただいたのが本作です。

 ちなみに、こちらのイラストは、“人間のフリして生活する天使”という隠れたテーマでしたが、きっかけというとそこまで深みはないです……。「美しい顔とは?」「どう描くと美しい顔になるか?」という自分なりの絵柄を追求しながら好みの顔を描きたいと思って描いたものです。

――“人間のフリして生活する人外”という設定が先にあったんですね。何か物語のインスピレーションやヒントとなったものがあれば教えてください(岩本)

 海外ドラマ「グッド・オーメンズ」と「LUCIFER/ルシファー」は“天使と悪魔が人間集団に馴染んで生活する”という要素がてんこ盛りです。天使や悪魔たちが人間社会に混じって過ごす生活感や人間が真実を知ってどう反応するかを興味深く見ました。

©野ノ宮いと/リブレ

©野ノ宮いと/リブレ

『はだしの天使』創作裏話

――人間のターナー、元天使のベニーという構図の中で、段々と人間味を増していくベニーを表現するために工夫した点やこだわった描き方はありますか?(井上)

 ベニーのような表情が乏しいキャラクターの場合、目や口元も大事ですが、眉の動きもきちんと表現するようにしています。

 初めて洋画を見たときに、外国人の些細な表情がわかりづらいことが多かったんです。それから何度か見ていて気付いたのが、登場人物たちの眉の動かし方がまるで感情があるかのように見えたこと。それがとても印象に残りました。ディズニーやピクサー映画ではキャラクターの眉の動きがよく表現されていますよね。

――“眉”とは奥が深いです。ベニーの眉に注目して読み返したくなりました! 一つ一つのシーンに思い入れがあるかと思うのですが、野ノ宮さんの特にお気に入りのワンシーンはありますか?(岩本)

 ベンチの上で目覚めたベニーが女の子と出会って話す、第1話の前半シーンです。当初はもう少し“おにロリ(おにいさんとロリータ)”が会話しているシーンを増やしたかったのですが、ページ数的に断念しました。今までにない寒さを経験し、初めての人間に会ったベニーにとっては印象的なことだったと思います。

©野ノ宮いと/リブレ

©野ノ宮いと/リブレ

――僕個人としては、episode5のクライマックス、早朝ベンチに座るベニーを照らす光の描写がとてもあたたかくて大好きです。光と影の描き方が素晴らしいと感じました。描く上でこだわった部分などあるのでしょうか?(井上)

 より印象的なシーンにしたいときは、とにかく影、影、という感じです。光の場合、フィルムのようにぼやけた味を出したいとは思っています。epispde5のこのシーンを描いていたときは〆切まで数時間前という状況で、徹夜で描き込む暇がなく、線の代役としてトーンに任せっぱなしでしたが、おかげで雰囲気がよく出せていたのでベニーのシーンは私も大好きです。

――私からも、個人的な感想で恐縮なのですが、ベニーの歌声がものすごく気になっています。読んでいる最中はまさに“天使の歌声”に脳内変換していたのですが、ベニーの歌声はどんなイメージの歌声なのでしょうか?(岩本)

 歌声はウォルトディズニープリンセスのイメージです。もしまわりに動物がいたら囲まれていたかもしれません。透き通っていて、歌い終わってもずっと耳に残るような歌声だと思います。

©野ノ宮いと/リブレ

©野ノ宮いと/リブレ

――さらに気になるといえば、もう一つ。ベニーが天使だったころの名前は明かされないままでしたが、ベニーの設定は細かく決まっていたのでしょうか?(井上)

 ベニーがかつていた天界がどのような場所かという設定はもちろんあります。天界は人間にとって自然な「妊娠して産む」という概念はありません。その上でベニーがどのように生まれたかという設定もきちんと考えています。続編も決まったので、もしかすると続編でたくさん明かされていくかもしれません。もちろん、明かされないまま終わったベニーの真名もです!

©野ノ宮いと/リブレ

©野ノ宮いと/リブレ

野ノ宮さんの“BLことはじめ”は小説から

――野ノ宮さんの“BLことはじめ”について教えてください! BLが好きになったきっかけや初めて読んだ作品は何ですか?(井上)

 同性愛の存在を認識したのは、高校の頃にスマホを買ってもらったときです。初ネットサーフィンにハマっていたら、目に飛び込んできたものが男同士でラブラブしている画像でした。不思議と不快感はなかったです。

 初めて買った商業BLは小説でした。栗城偲(くりき しのぶ)さんの『可愛くて、どうしよう?』(プランタン出版)という作品です。小嶋ララ子さんが描いた表紙がとても可愛くて衝動買いしまったのですが、内容もキャラもふわふわしていてとても可愛かったです。

――小説とは意外でした……! BLに限らず、クリエイターとして影響を受けた作品や作家さんはいますか?(井上)

 『D .Gray-man』(集英社)で星野桂先生が描かれる戦闘シーンが特に好きです。アクションの疾走感といいますか、静と動を上手に扱えているような、見ていて気持ちのいい線の描き方をしています。この作品の世界観は、好きな要素がたくさん詰め込まれていて、小学生の頃から読んでいました。その頃は難しいセリフなど理解できなかったのですが、年をとってからまた読むと何気ない言葉の意味や深みが理解できて、もうずっと読み返しています。現在では、私にとって「聖書」であり「参考書」でもあります。

――『D .Gray-man』、偉大な存在ですね。『はだしの天使』では「グッド・オーメンズ」や「LUCIFER/ルシファー」がインスピレショーンにもなったということですが、最近ハマっている海外ドラマなどはありますか?(井上)

 「SHARLOCK /シャーロック」と「モダン・ファミリー」です。Netflixで何度もリプレイして見ていますが、食事中でも見たくなります。海外ドラマ以外ではアニメの「ジョジョ(ジョジョの奇妙な冒険)」ですかね。

――食事中でも! 好きな作品は何度も読み返したり見返したりと、野ノ宮さんはハマるとかなり夢中になるタイプなんでしょうか。そんな野ノ宮さんが寝食を忘れてしまうくらい、いま夢中になってしまうことは何ですか?(岩本)

 お絵描きです、絵以上に時間を忘れて夢中になれるものはないです。昼食を忘れて毎日二食の日々を送ったことがありましたが、おかげで病院通いすることになりました……。それからは、必ず三食食べて少し運動するように心がけています。

――夢中になってお昼を忘れるのは、まるで『はだしの天使』の靴作り中のターナーのようです! 絵を描く上で一番楽しいと感じる、好きなことを教えてください。(井上)

 美しい男の顔を描いているとき、ですかね。下まつげを一本描くたびに幸福感を得ています。

――下まつげは大事ですね(笑)。最後に、これからチャレンジしてみたいテーマ、描いてみたい物語はどんなものですか?(井上)

 アクションものが好きなので、戦闘シーンがあるストーリーは描いてみたいです。今はその実力がまだ足りませんが、いつか描いてみたいなと思っています。