「生きるためのフェミニズム」書評 多様性掲げ排除する新自由主義
ISBN: 9784907053499
発売⽇: 2021/07/30
サイズ: 19cm/187p
「生きるためのフェミニズム」 [著]堅田香織里
著者は社会福祉学を専門とする研究者だが、初単著となる本書は、論文集ではなくエッセーだ。公と私を軽やかに横断しつつ書かれた文章は、大変リーダブルだが骨太である。
サブタイトルにある「パン」と「バラ」は「生活の糧」と「尊厳」を意味している。20世紀初頭のアメリカで起こった移民労働者によるストライキにおいて、とある参加者女性の掲げたプラカードに書かれていたのが「パンをよこせ、バラもよこせ!」だったという。
そして現在、労働者のパンとバラはどうなったか。著者によれば、民営化・私有化を是とする「ネオリベラリズム(新自由主義)」の台頭により、「次第に『バラ』を求める声に『パン』を求める声がかき消されるようになっていく」という。
「労働市場で『活躍』し、市場に多くのカネを落とすという意味で、社会の『役に立つ』とみなされればマイノリティも積極的に包摂するが、『能力』の『活用』を拒否する『怠け者』や貧乏人は、『役に立たない』とみなされ徹底的に排除され、ネオリベラル資本主義の秩序は維持される」……多様性に寛容であること、個々人の能力を尊重することは、大いに歓迎すべきだが、巡り巡って「弱者のパンのことなど知らん」という帰結をもたらすのであれば、首肯しかねる。一見して進歩的な態度の裏には、弱肉強食的な価値観がひっついているのかも。「私たちはみな、資本主義という恒常的な災害の被災者である」の一文もなるほどその通りだ。
じゃあ、弱者は強くなるしかないのかというと、必ずしもそうではない。本書には、路上生活者を始め、弱いまま生き延びようとする者の営みが記録されている。それはネオリベラリズムにとって「ノイズ」でしかないのかもしれないが、ノイズが世界を豊かにしているのもまた事実なのだ。心のミュート機能を解除し、ノイズに耳を傾けられるかどうかは読者がどんな世界を望むかにかかっている。
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かただ・かおり 1979年生まれ。法政大准教授(社会福祉学)。共著に『べーシックインカムとジェンダー』など。