えんやこらと力を合わせて何やら大きなものを引っ張る。東日本大震災の年から本格化した「引き倒し・引き興し」シリーズで知られる著者。こんなにもバージョンがあり、また彼がこんなにも多様な仕事をやっていたのかと読者は驚くだろう。本書は対談2本をベースに、過去を振り返っていく。長い対談と、豊富な図版の一対一の真剣勝負になっていて、面白い。「記録」に過ぎない図版が遠慮なくグイグイ前に出てくるのだ。
大きなプロジェクトを実施する時も「一対一」を大事にすると著者は語る。その場所へ深く入り込んでいく彼の作風は、現地の人との信頼関係がなくてはできないから。マレーシアでやった時は「自分にはわからないけど、おまえにとっては大事なことなんだろ?」と手伝ってくれたという。アートは長いスパンでものを考え、情報を保存、伝達するとも著者は語るが、マレーシア人のこの言葉も本書があるから保存された。その人と私はきっと会うことはないんだろうけど「おまえっていい奴(やつ)だな」と読みながら思った。=朝日新聞2021年12月4日掲載