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吉原直樹さん「モビリティーズ・スタディーズ」インタビュー 「移動」のあり方、コロナ禍で再考

吉原直樹さん

 グローバル化を推し進め、人やモノの移動を拡大させ続けてきた現代社会。世界中に広まったコロナ禍はそこに、深刻な打撃を加えた。感染症拡大のリスクを伴うことが顕在化した「移動」という営みを見つめ直そうとする本が、1月下旬に刊行される。

 『モビリティーズ・スタディーズ』(ミネルヴァ書房)は、これまで社会学において「移動(モビリティーズ)」がどういった位置づけで語られてきたかを概観し、ポストコロナ時代へと「移動」がいかに変容していくかを考察する。筆者の吉原直樹・東北大名誉教授(都市社会学)は「これまで『移動』の拡大は、多くの場合、私たちに自由をもたらすという正の側面しか捉えられてこなかった。だが、コロナ禍を経て、私たちはその再考を余儀なくされている」と話す。

 吉原さんが特に重視するのが、英国の社会学者ジョン・アーリ(1946~2016)だ。「移動」を軸にした社会分析にいち早く取り組んだアーリは、03年に流行したSARSを念頭に、国境を越えた人の流れがパンデミックを引き起こす事態を示唆していた。

 アーリは晩年、近未来の都市像を予測した。その中には、安全な旅行などが富裕層の特権となり、多くの人々は危険にさらされて生活するというシナリオも含まれる。「コロナ禍では、エッセンシャルワーカーが感染のリスクを負いながらも働かざるを得ないという現状が浮き彫りになった。『移動』の格差は、既に深刻化しつつあるのでは」と吉原さんは指摘する。

 吉原さんは、権力側によるデジタル技術を駆使した監視や行動の制限が、社会の安全に必要だとして一定の支持を集めたことにも注目する。「それらが市民の権利と対立するものとして論じられる向きが弱まった。『移動』にはますます、権力側の『目』が伴うようになる可能性もある」

 無際限に拡大してきた「移動」がひとたび立ち止まった後には、どのような未来が現れるのだろうか。

 吉原さんは「『地元の知』が今後いっそう重要になる」と話す。長距離の「移動」がかなわなくなった時、グローバル化のなかで見落とされてきた地域ごとの共同体が、=朝日新聞2022年1月19日掲載