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「最後の角川春樹」書評 流行は乗るものでなく作るもの

評者: 石飛徳樹 / 朝⽇新聞掲載:2022年01月22日
最後の角川春樹 著者:伊藤 彰彦 出版社:毎日新聞出版 ジャンル:日本の小説・文学

ISBN: 9784620327105
発売⽇: 2021/11/19
サイズ: 20cm/319p

本と映画と音楽の融合、父との闘争と和解、価値破壊と文化創造…破格の構想力によって、「出版」は「事件」となった。幾多の受難から立ち上がった角川春樹が、少年時代から現在までを…

「最後の角川春樹」 [著]伊藤彰彦

 日本の出版界と映画界に殴り込みをかけた革命児、角川春樹さん。彼の半生を描くには覚悟が要る。神がかり的な奇跡、実弟との確執、逮捕と服役……。エキサイティングだが、書きにくいことばかりである。
 実は私も角川さんのロングインタビューを本紙で連載したことがある。面白く書けたと自賛していたのだが、伊藤彰彦さんの手になる本書を読んで脱帽した。私がためらった箇所にも紙幅を割いている。伊藤さんの覚悟が伝わってきた。
 角川さんへのインタビュアーに必要なのは覚悟だけではない。出版と映画の知識は必須のこと、俳句の素養や宗教への造詣(ぞうけい)など広範なジャンルに精通していなければ、魅力の全貌(ぜんぼう)をつかまえられない。その意味でも伊藤さんは適任だった。
 角川書店の創業者、角川源義の長男として生まれ、父の会社に入社。型破りの発想を次々実行し、老舗出版社に追い付き追い越せと会社を成長させた。映画製作にも進出。書籍と映画、音楽を同時に売る「メディアミックス」を生んだ。
 吉本隆明に著作の文庫化を頼んだ際の口説き文句。「あなたの作品はまったく読んでいないけど、売れそうだから来たんだ」。それはウソで、吉本の詩が大好きだった。「吉本さんの周辺には彼を崇拝する編集者しかいなかったから、カマしたんです」と。角川さんらしい逆転の発想である。
 角川さんはマーケティングは重視しない。「作品や事業の成功にはマーケティングやコンセプト以上に、いかに情熱=エネルギーがかけられているかが重要なんです」。流行に乗るのではなく、流行を作るのだ。
 映画「男たちの大和/YAMATO」の話で、伊藤さんは角川さんの本質を表す言葉を引き出している。戦艦大和の再現はミニチュアやCGでなく「原寸大」で、と主張した。「私は……角川春樹なんです。ミニチュアで『大和』を撮ったら角川春樹じゃなくなる」
 しびれました。
    ◇
いとう・あきひこ 1960年生まれ。映画史家。著書に『映画の奈落 北陸代理戦争事件』など。