工房などで働く職人さんの手元を見ていると、一つ一つの作業に無駄がなく、全てがすっきりとして見えるのに、その淡々と進んでいく様にファンタジーの魔法のようなものを感じることがある。自分でも使ったことのあるような道具が、まるで生きているかのように鮮やかに職人さんの手で活躍するのを見ていると、ただ感動するというより、自分の中でその道具の印象が一気に夢のあるものに塗り替えられていくようで、それでとてもドキドキしていた。それは、もしかしたら最初から非現実的な魔法に出くわすより、ずっとときめくことなのかもしれない。自分が生きている現実の延長線上に夢への扉があると、気づくようなこと。たとえ職人さんになることはなくても、研鑽(けんさん)を積んだ人たちが、魔法のような技術で作り上げたものに、私たちは触れることができる。その豊かさに、いつまでも夢を見ていたいって私は思う。
この絵本は「うまのどうぐのおみせ エルメス」を舞台にした絵本シリーズの第二巻。生き生きと描かれた糸、ハサミ、針、トンカチの姿は、人が技術をコツコツと磨き、もはや魔法のように鮮やかにそれらの道具を用いるときのあのきらめきが、そのままぎゅっと絵になっているようで愛(いと)おしい。人が自分の仕事に対して、律義にいつづけること、淡々と研鑽を積むことが、なんだかすごくロマンチックに思える絵本です。=朝日新聞2024年11月2日掲載