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東畑開人さん「なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない」インタビュー 時代に傷つく心へ補助線

東畑開人さん=倉田貴志撮影

 ユーモアあふれる軽妙な文体が、大佛次郎論壇賞を受賞した『居るのはつらいよ』などこれまでの著作の持ち味だった。それを封印し、「あなた」と二人称で語りかける。

 「心を扱うには、カウンセリングの時のように、静かな文体、遅い文体である必要がありました」

 都心でカウンセリングルームを開いている。訪れる相談者たちが抱える苦悩は、中堅世代になった自らや、この社会に生きる「みんな」の苦悩とも響き合うように感じる。

 しかし苦しさを容易には口にできない時代だ。

 資本主義が隅々まで行き渡った社会。リスクと責任を全部自分で背負い、夜の海を航海する小舟のような個人。自分の苦悩など他者はわかってくれないと思い、押し殺す。けれども、「わかってもらえない」寂しさは、時に暴走し、心身の不具合や周囲への暴力を引き起こす。

 「誰かにわかって欲しいというのは、人間の根本的な衝動であり、権利だと思います」

 他者との関わりを求めずにいられない私たちの心は、どう働きどう傷ついているのか。複雑な心のかたちを見えやすくする7本の補助線を示した。専門用語を「翻訳」した、対になる言葉の組み合わせだ。

 たとえば「シェアとナイショ」という補助線。「シェア」は経験などを共有することで生まれる互いを傷つけぬつながり、「ナイショ」は特定の誰かと傷つけ合いながら深めるつながり。時代の主流は安心できるシェアだが、身の安全は確保した上であえてナイショに飛び込むことが、心にとって必要な場合もある。

 カウンセリングには、時代の中で傷ついた人たちがやって来る。「主流と反対の価値にも意味があるという逆張りのメッセージを出し続けるのが、僕らの職業のエートスです」(文・高重治香 写真・倉田貴志氏)=朝日新聞2022年4月2日掲載