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現代社会の歪みとらえた「映画を早送りで観る人たち」など杉田俊介が選ぶ注目の新書2点

「映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形」

 大ヒットした「鬼滅の刃」等(など)を観(み)て、今の若い人々には「生まれながらに奪われている」という感覚があるのではないか、と感じていた。稲田豊史『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形』(光文社新書・990円)によれば、若い世代ほど映画を早送りで観る。事前に結末やあらすじを調べる。眉を顰(ひそ)める人もいるだろう。しかしなぜそれほど効率(コスパ)を重視するのか。端的に時間やお金がないからだ。心の余裕を奪われているからだ。情報過多で流動的な「ファスト」社会の中で、個性や拠(よ)り所(どころ)を効率的に求めざるをえない。合理的な生存戦略なのである。世代論的な若者批判というより、現代社会の歪(ゆが)みを批評する一冊であり、読みながら胸が苦しくなった。
★稲田豊史著 光文社新書・990円

『日本アニメ史 手塚治虫、宮崎駿、庵野秀明、新海誠らの100年』

津堅信之『日本アニメ史 手塚治虫、宮崎駿、庵野秀明、新海誠らの100年』(中公新書・1034円)は、日本アニメ通史をコンパクトに、ある意味で「ファスト」的に紹介しつつ、埋もれてしまった表現の可能性をも丹念に――歴史をコマ送りしスロー再生するように――拾い集めていく。特に戦中作品→東映動画→ジブリという流れに対し、手塚治虫の情熱を再評価(晩年まで実験的・個性的なアニメ表現を模索した)した部分などは興味深い。
★津堅信之著 中公新書・1034円=朝日新聞2022年5月7日掲載