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「戦争後」の国際規範とその実践を解説「だれが戦争の後片付けをするのか」 佐藤雄基の新書速報!

  1. 『だれが戦争の後片付けをするのか 戦争後の法と正義』 越智萌(めぐみ)著 ちくま新書 1012円
  2. 『明治維新という物語』 宮間純一著 中公新書 1034円

 戦争は「マクロ」な現象で、一つの出来事として扱われがちだ。だが、今日のロシア・ウクライナ戦争では、市民のSNS動画投稿により、一人一人から見た「ミクロ」な戦争体験が全世界に発信されるようになった。同時に、兵士による民間人への暴力などの戦争犯罪に関する情報もまた全世界に共有されている。今回の戦争に注目する国際刑事司法の専門家による(1)は、ICC(国際刑事裁判所)の働き、捕虜の交換、被害者への賠償など「戦争後」の国際規範とその実践を紹介する。戦争犯罪における「真実」の解明は、正義の追求だけではなく、被害者・被害地域の救済と和解に重要な役割を果たすという。今回の戦争では、戦争犯罪に関する記録保存が戦争中から進められている。

 戦争の記憶は、個人や家族、地域など様々なレベルで語り継がれる。日本近代史家による(2)は、明治政府が自らを正当化するために創り上げた明治維新の歴史に対して、戦争を体験した周防大島、飯能、秋田大館、「出遅れた」佐倉、志士を発見した笠間などで、明治維新をめぐる地域社会の記憶が書き替えられていく様相を描く。地域社会の人びとは、政府による明治維新の記録保存が不十分であることを逆手にとり、民間に遺(のこ)された記録を利用し、自分なりに歴史を語り、近代を生きてきた。(1)にみるように個人による記録保存・共有が飛躍的に容易になった現在、将来いかなる歴史が人びとによって編まれていくのだろうか。=朝日新聞2025年6月21日掲載