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中山千夏さんの絵本「どんなかんじかなあ」 障がい者と「共に生きる」ことが大事

文:石井広子

和田誠さんが描いた「音の絵」

――友達のまりちゃんは目が見えない。「見えない」ってどんなかんじかなあと、主人公のひろくんは、目をつぶってみる――。耳が聞こえない人、親を亡くした人、いろいろな立場の人の気持ちを想像しながら、多様性を学んでいく中山千夏さんの絵本『どんなかんじかなあ』(自由国民社)。2005年に出版された本作は、第11回日本絵本賞を受賞した。

 絵本作りは、昔から知っていた編集者から「絵本を書きましょう」と声をかけてもらったのがきっかけでした。それまで小説などは書いたことがありましたが、絵本は書いたことがなかったんです。だから、他に類似した絵本がないかどうかについては、特に気を遣いました。

 絵本シリーズとしていくつかお話を書いた中で、この『どんなかんじかなあ』をイラストレーターの和田誠さんが気に入って、絵を描いて下さったんですよ。和田さんとは、もう1970年代からの友達だったので、私の感性もきっとお分かりになっていたと思います。特に打ち合わせすることもなく、絵本が出来上がってから絵を見ました。文章を書いたら、私は全面的に絵描きさんにお任せなんですよ。どんな絵が描かれるか想像するのを自分で禁じているというか、絵本が完成したときに見るのをいつも楽しみにしています。

「どんなかんじかなあ」(自由国民社)より

――中山さんが気に入っているのは、いろいろな音が聞こえてくるという真っ黒な場面。
音のかけらのような色鮮やかな形がちりばめられている。

 ひろくんは「目の見えない友達のまりちゃんって、どんなかんじかなあ」と思いを巡らせて目を閉じる。そして耳を澄ますと、いろいろな音が聞こえてくる。そんな場面を和田さんは上手く表現してくれました。全く予想していなかった絵です。おそらく和田さんも、「音の絵」を面白がって描いてくれたんじゃないかと思います。絵本の見返し部分も、音の絵ですからね。

「どんなかんじかなあ」(自由国民社)より

 あと、「音が聞こえない」というページも気に入っています。友達のさのくんは耳が聞こえない。ひろくんが耳栓をして「聞こえないってどんなかんじかなあ」と想像する場面です。窓にチョウチョが飛んでいたり、きれいなカーテンがかかっていたり……。目に触れる様々なものの色鮮やかさやシルエットが、普段より際立っている感じがよく出ています。窓から入ってくる風を肌で感じるような絵です。

「どんなかんじかなあ」(自由国民社)より

 お父さんとお母さんを震災で亡くしているきみちゃんと話す場面では、ひろくんは、彼女に「寂しいんだろうね」と問いかける。でも、きみちゃんは泣きもせず、どうってことないよっていう感じで答えます。こんな想像を超えてくる答えの方が、話が生き生きしてくると思ったからなんです。

車いすの少女が教えてくれたこと

――物語はフィクションだが、実体験に基づいている。難病を抱えた車いすの女の子との出会い、障がいのある人々との交流がこの絵本が生まれるきっかけになった。

 私が「一筆啓上賞」という短い手紙文のコンクールの審査員を務めたときに、ある車いすの女の子が入賞したんです。その祝賀会で一度だけお目にかかりました。当時、治療法がない難病を抱えていて、動かすことができるのは、指先、目、口だけでした。それでも、大学を目指して努力を重ねていて、生き生きとした彼女の姿に、すごく感銘を受けたんです。

 障がいのある友人、障がいのない友人、自分のこと、皆それぞれ自分ではどうすることもできない辛さを背負って生きているということ。でも助け合えば生きることができるということ――。彼女は私にいろいろなことを教えてくれました。でも彼女はその後、20歳代という若さで亡くなってしまいました。他にも、障がい者のグループと以前から交流があって、こうした様々な出会いがこの絵本につながったと思っています。

――絵本を通して子どもたちに伝えたかったのは、「人はみんな違っていていい」ということだという。

 とかく世間では、子どもたちに「障がいのある人を助けましょう」と教えがちですが、そうではない。どちらかだけが助ける側ではなく、共に生きることが大事ということですね。つまり、障がいのある人もない人も、同じ人間であるということを伝えたかったんです。それを私に気付かせてくれたのは、シンガーソングライターとして活動している盲目の長谷川きよしさんでした。

多様性を感受するために

――物語には、あっと驚く展開も待っている。

 人間って意外性のあることに引き付けられるじゃないですか。「ええっ、本当?」って思うような仕掛けがないと子どもは飽きてしまう。大人もそうですよね。実は最後まで、主人公のひろくんが車いすに乗っているとはわからないように物語を書いたんです。単純に言えば、物書きのいたずらですね。すると、イラストレーターの和田さんが「どんでん返しのような仕掛けがあるお話だから、それを生かさなきゃいけない」と工夫して下さったんです。絵もそのような仕掛けにしてくれたことは、大変効果的だったと思いますね。

撮影:シミズヒトシ

 車いすのひろくんは友達のことを想像していろいろ試しながら、もちろん、「動けたらいいなあ」っていう気持ちを持たないわけではないと思います。でも、こんなふうに、障がいがあろうがなかろうが、相手のことをどんな感じかなと想像してみるというのは、大事なことだと思うんですよね。

――コロナ禍、そして海外で戦争も起きている世の中で、改めて「相手のことを想像してみる」ことの大切さを知ってほしい、と中山さんは話す。

 今、子どもたちにとって、本当に生きにくい時代だと思います。コロナ禍で外には出られず、さらにウクライナでの戦争のニュースもたくさん耳に入ってきますから。本来、大人が子どもたちのことを想像したら、戦争なんて起こしようがないと思うんですよね。

 家族や友達、そして海を越えた場所にも様々な人が存在します。流行りの言葉で言えば、多様性ということ。多様性を感受するためにも、一番大事なのは、相手の気持ち、状態を考えること。人はどういうふうに感じているのか、人の置かれている立場を、常に自分なりに思いを巡らせてみること。そこで自分は何ができるかを考えてみること。この絵本を読みながら、それを自然と経験してもらえたらと思います。