ISBN: 9784642059466
発売⽇: 2022/03/19
サイズ: 19cm/257p
「神になった武士」 [著]高野信治
副題にすっかり騙(だま)された。「平将門から西郷隆盛まで」――ふむふむ、その他の神になった武士といえば徳川家康に豊臣秀吉、源為朝もいたっけと考えながら読み始め、己の浅学に打ちのめされた。なにせ本書によれば、古代から現在までに神格化された武士の総人数は二四三一人、うち一カ所のみで祀(まつ)られている者は二一一二人と、私の予想をはるかに超える武士祭神が紹介されていたからだ。
本書は全国に存在する武士祭神を統計化し、そのデータを元に神格化の歴史を読み解いた書籍。作中にも言及がある通り、そもそも武士祭神は地域色が強い存在である。それを悉(ことごと)く調査した筆者の意欲には、つくづく感服させられた。
武士はなぜ神とされるのか。平将門、徳川家康といった著名な者ばかりではなく、実に二千人を超える武士が全国各地で祀られる理由は何か。筆者はその背景を分析するとともに、彼らが神になった後の文芸・芸能的側面にも筆を伸ばす。また一方で彼らが祀られ始めた時期が近代に多いという特徴を通じて、日本社会の変容にも焦点を当てている。
個別に紹介される事例は多彩で、たとえば江戸時代中期、蝦夷地(北海道)警備を幕府が重要視し始めるのと前後し、かの地に源義経が祀られたとの例は興味深い。これはアイヌの伝承を義経渡島伝説に置き換え、更に義経に日本守護の神たる性質を付与したもので、海外に対して神経質であった幕府の姿勢が偲(しの)ばれる。また東京・大手町の首塚に祀られていることで知られる平将門が、首や首より上の病気の治癒神として崇(あが)められている例から、彼らの性質の変化も分かるのは興味深い。
地域に根差した武士祭神を知ることは、その地を学ぶことでもある。神格化された武士を通じて我々が抱く記憶を再認識するとともに、今までとは異なる眼差(まなざ)しで地域を知る契機ともなる一冊だ。
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たかの・のぶはる 1957年生まれ。九州大名誉教授・特任研究者。著書に『武士の奉公 本音と建前』など。