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「皮膚、人間のすべてを語る」書評 自分を理解するための実践哲学

評者: 藤原辰史 / 朝⽇新聞掲載:2022年06月18日
皮膚、人間のすべてを語る 万能の臓器と巡る10章 著者:塩﨑香織 出版社:みすず書房 ジャンル:健康・家庭医学

ISBN: 9784622090922
発売⽇: 2022/05/11
サイズ: 20cm/270,34p

人間の皮膚で幸せに暮らすダニやマイクロバイオーム、皮膚に刻んだタトゥーの意味…。科学や医学から、社会学、心理学、歴史までを含む広大な皮膚の世界を巡り、皮膚の本質に迫る。2…

「皮膚、人間のすべてを語る」 [著]モンティ・ライマン

 「知ればきっと元気が出る」と帯にあるが、サプリメントみたいで最初は読む気がしなかった。だが、一ページ開いたらやめられなくなり、結局読後には本当に元気が出てきて驚いた。
 皮膚とは何か。これが本書をつらぬく問いである。皮膚科の医者であり、研究者でもある自然科学者の語る皮膚論だが、皮膚の実践哲学ともいうべき人文学的豊かさを湛(たた)えている。
 わずか一ミリに満たない皮膚の表皮には、死んで硬化した細胞の層があり、日々更新されている。無数の常在菌が住み、免疫細胞と健全な相互関係を築いている。そうした「サファリ」のような皮膚が、有害な攻撃や刺激のバリアーとなる。真皮に住む免疫細胞は、それらが連携して侵入してきた細菌を攻撃する。皮膚の各部位の連携で、繊細な触覚も構成している。
 著者の思考は人文系の世界にも向かう。皮膚は人間最大の臓器であり、社会や精神と深くかかわっているという。単なる我々の覆いではない。ストレスゆえに皮膚にシワが増えることもある。ニキビに悩み自殺を考えた人は英米で二割に達するという調査もある。にもかかわらず、皮膚病は重視されにくい。また、人体最大の生殖器である、という著者の表現が全然奇抜でないことも明らかになる。
 本書が元気を与える理由として、次のことを考えた。第一に、老化、皮膚がん、ニキビなど、皮膚のトラブルに悩む人が世の中には多数いることがわかり、それぞれに有意義な情報を多数知れること。第二に、私たちが普段酷使している皮膚が信じられないほど強靱(きょうじん)なシステムを有していると知って安心すること。
 そして第三に、良きにつけ悪しきにつけ皮膚が社会関係や人間精神と深く結びついていると知り、自他の皮膚を慈しむ気持ちが芽生えること。皮膚を理解することは私たちが何者かを理解すること、という言葉に、著者の皮膚観が凝縮している。
    ◇
Monty Lyman 英オックスフォード大医学部リサーチ・フェロー、皮膚科医、著述家。