「週刊少年マガジン」(講談社)といえば、古くは『巨人の星』や『あしたのジョー』、90年代には『湘南純愛組!』や『疾風(かぜ)伝説 特攻(ぶっこみ)の拓』といったヤンキーマンガで知られる。週刊少年誌の中でも男くさく、“硬派”なイメージが強かった。ところが、である。2022年現在、なんと連載作品の4割、10本前後も「ラブコメ」が占めていると聞いたら驚く人も多いのではないだろうか。
他誌と比べたとき、「少年マガジン」のラブコメの特徴は“ハーレムもの”、すなわち女の子がたくさん出てくることだ。これは1998年に始まった『ラブひな』が元祖といわれている。初恋の少女との約束をはたすため東大を目指して浪人中の浦島景太郎は、ひょんなことから女子寮「ひなた荘」の管理人となって「5人の美少女と一つ屋根の下で暮らす」ことに。最近注目が高まる赤松健の出世作であり、累計発行部数は2000万部を超えている。
この作品のオマージュとも呼べそうなほど、よく似た設定を取っているのが昨年から同誌で始まった『女神のカフェテラス』(瀬尾公治)だ。
現役で東大合格が決まった直後、粕壁隼(はやと)は育ての親だった祖母の訃報を聞いて3年ぶりに帰郷。祖母が経営していた喫茶店「ファミリア」には、5人のウエートレスが住み込んでいた。隼は東大を休学し、彼女たちとともに「ファミリア」を引き継ぐことを決める。
共同生活する女の子は、空手少女の秋水(あみ)、もと天才子役の流星(りほ)、おしとやかな白菊(しらぎく)、バンドガールの紅葉(あかね)、ツンデレの桜花(おうか)。最初から成瀬川なるがメーンのヒロインで残り4人はオマケだった『ラブひな』と違い、「5人全員が対等」で、最終的に誰が隼と結ばれるのかわからない。第1回ヒロイン人気投票の順位は「白菊、流星、秋水、紅葉、桜花」だったが、第2回では「紅葉、桜花、秋水、白菊、流星」と上位と下位がきれいに入れ替わっており、個々の人気にもほとんど差がないことがうかがえる。文字通りの“複数ヒロイン”となっているわけだ。
5人の美少女と暮らす唯一の男子である主人公像にも違いが見られる。『ラブひな』の景太郎は「東大を目指す浪人生」で、これといった取り柄のないさえないメガネ男子だった。一方、隼は現役で「東大に合格した」クールなイケメン。景太郎のような“感情移入しやすい等身大の主人公”ではなく、「どうして、こいつがモテるんだ?」という疑問を起こさせない。読者が張り合う気にならないハイスペックな“ヒーロー”と呼べるだろう。
なるが好きだった景太郎と違って、隼が特別な感情を持っている相手はおらず、その点でも読者が影響されることはない。個人の好みが細分化し、多様な価値観が併存するようになった時代の流れは“ハーレムもの”にも影響を与えているようだ。