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伝説の編集者・宇山日出臣、追悼の書 赤川次郎さん・島田荘司さん・恩田陸さんら53人

宇山日出臣=小林紀晴氏撮影

 編集者の評伝はあっても、追悼文集が商業出版されるのは珍しい。『新本格ミステリはどのようにして生まれてきたのか? 編集者宇山日出臣(ひでお)追悼文集』(星海社)はタイトル通り、伝説の編集者の仕事を、作家らが没後16年をへて振り返った追悼の書だ。

 1944年生まれの宇山は69年、大手商社から講談社に転職、87年新設の文芸第三出版部(文三)を拠点に、自ら「新本格」と名付けたミステリーの新潮流を生み出した。定年退職翌年の2006年、肝硬変のため62歳で急逝した。

 追悼文を寄せたのは赤川次郎さんをはじめ53人。共に新本格を主導した島田荘司さん、潮流の草創期を担った綾辻行人さんや法月綸太郎さん、直木賞作家の皆川博子さんや恩田陸さんらが名を連ねる。多くの文章には、宇山が深い読解力に基づき、意中の作家から巧みに原稿を引き出す手練手管がユーモアを交えてつづられている。

 新本格ばかりが取り上げられる宇山だが、最相葉月さんは「星新一の後半生でもっとも重要な仕事」を手がけた編集者として紹介している。駆け出しのころに信頼を得て、星ひとりが選考委員を務めるショートショート・コンテストを仕掛け、太田忠司さん、井上雅彦さんらが輩出した。彼らを含め、宇山に導かれた多くの作家は、最後の大仕事となったジュブナイル叢書(そうしょ)「ミステリーランド」に力作を寄せることになる。

 巻末には新本格を牽引(けんいん)した4作家、3人の評論家、当時の文三メンバーそれぞれによる、三つの座談会を収録。酒好きだった宇山の周辺で起きた悲喜こもごものエピソードは、故人の人柄と、時代の空気を伝える貴重な資料になっている。

 追悼文集を企画したのは文三で宇山の薫陶を受けた星海社社長の太田克史さん。内田康夫さんら宇山の仕事ぶりを知る人が次々と鬼籍に入るなか、「今しかない」と呼びかけた。

 「追悼文を読むと、多くの人が、宇山さんが自分だけに特別な顔を見せ、自分のことをわかってくれたと思っていることが伝わります。流行に左右されず自らが好む異形な文学を愛した人だけに、編集者の追悼文集という変な本を喜んで下さると思います」(野波健祐)=朝日新聞2022年6月22日掲載