1. HOME
  2. コラム
  3. 中江有里の「開け!本の扉。ときどき野球も」
  4. 7連敗の後に11連勝、人生にも野球にも特別な「花」が咲く。世阿弥も多分そう言ってた 中江有里

7連敗の後に11連勝、人生にも野球にも特別な「花」が咲く。世阿弥も多分そう言ってた 中江有里

(Photo by Ari Hatsuzawa)

 交流戦、苦悩の7連敗後、阪神タイガースは破竹の11連勝。強すぎて怖いです。
 両リーグ最速の50勝到達。「凡事徹底」でどこまでもいってください!

 ところで、最近の野球トピックの備忘録。

 東京の仕事現場にて。帰り際、スタッフさんが「実は僕も(わたしも)阪神ファンです」
 えー、阪神トークしたかったなぁ。阪神愛は人の距離を一気に縮める。

 今秋公開予定の主演映画「道草キッチン」が、ベトナムのダナンアジア映画祭に招待された。思いがけず海外の映画祭に初参加!
 会場で、アジア映画コンペティション部門に出品された「君の忘れ方」の作道雄監督から「関東の阪神ファンです」と挨拶された。阪神愛は海外でも熱い。

 女優の長谷川真弓さんはソフトバンクホークスのファン。
 最近仲良くなってから、しょっちゅうLINEで互いのチームの状況をやりとりしている。

 阪神ファンだと知られるようになってよかったのは、他の球団のファンの方と野球について話せることだ。

 試合結果に一喜一憂する毎日。好きなチームは違っても同じ気持ちを共有する仲間だ。

 もっと他チームについて知りたい、と思ったが吉日。3試合同時視聴を始めた。

 テレビで阪神戦、PCで別の試合(その1)、スマホで別の試合(その2)の3試合(基本、セリーグの試合です)。

 阪神戦は、自分でも驚くほどに感情の波が激しくなる。
 ヒットを打てば、テンションがあがる。エラーすると「何してんねん」と声に出る。
 勝てば疲れは吹っ飛ぶけど、負けたら寝るまで気分はどんより。
 敗因を自分なりに振り返り「明日は勝つ」と信じて横になる。

 野球を観なければ、もっと静かな夜を過ごせるのだろう。
 そうわかっていても観続ける人は、平穏な夜を過ごせない仲間です。

 わたしの本棚に並ぶ世阿弥『風姿花伝』は付箋だらけ。
 能を演じる人への実践論としてかなり具体的な内容があるが、芸術論として面白い。

 『風姿花伝』の有名な言葉「秘すれば花」。
 「つつましい美徳」「奥ゆかしい美しさ」を謳っているわけじゃない。
 観客に「花の存在を気づかせてはならない」と言っているのだ。

 たとえばミステリー小説を読む時、すぐにネタバレしては面白くない。
 このネタが「花」だとしよう。
 書き手は「花」を悟らせないように書き、読み手は「花」を推理しながら読み進める。
 読書は「花」をめぐる書き手と読み手の攻防戦みたいなものだ。

 野球の試合は毎試合まったく違う。一気に大量得点する時もあれば、0点のまま9回までいくこともある。最後の最後まで勝負の行方はわからない。
 どんな試合にも思わぬところに「花」が咲く。だから観るのをやめられない。

*    

 阪神戦は圧倒的に興奮する。平穏な夜はオフシーズンまでお預けだ。
 ところで他チームの試合、二軍の試合には別の「花」がある。

 各選手のプレイはもちろん、試合の流れや采配。客観的に試合と選手たちを観られる。
 「いいピッチャーだな」「走塁がヤバい」「鬼肩だ」
 どのチームの選手であっても、スーパープレイには拍手を送る。
 セ界には想像もしなかった美しい「花」があちこちに咲いている(パリーグだって同じく)。

 阪神の「花」は毎日たくさん咲いてほしい。
 その花道を先までついていきます!