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「神の方程式」書評 物理学と縁遠い人こそ楽しめる

評者: 石原安野 / 朝⽇新聞掲載:2022年06月25日
神の方程式 「万物の理論」を求めて 著者:ミチオ・カク 出版社:NHK出版 ジャンル:物理学

ISBN: 9784140818992
発売⽇: 2022/04/27
サイズ: 20cm/217,13p

「神の方程式」 [著]ミチオ・カク

 「神の方程式」といわれてしまえば神を信じていない一人の物理学者にはどうも作り事の世界の話のようにも聞こえてしまうのである。それでも確かに、物理学者なら誰しも夢見る理論、というものがある。
 その理論は美しい方程式で表されてほしい。願わくは寄せ集めのような式ではなく、シンプルなものであってほしい。それでいて、宇宙の始まりから終わりまで、巨大ブラックホールからこれ以上分割できないところまで細かくしていくと現れる素粒子まで、を教えてくれるという方程式だ。
 これまでに多くの現象を説明し大成功を収めている現代物理学の標準とされる理論を著者は〈ほとんど〉万物の理論と呼ぶ。著者いわく「問題は、その理論が不格好だということだ」。
 もちろん問題はそれだけではない。不格好と呼ばれてしまうこの理論に足りていないのは重力に対する第一原理からの説明だ。このところ重力波の観測やブラックホールの撮像など日常にはとても現れないような強い重力の観測に急速な進展があり、新しい理論への示唆が期待されている。
 本書は古代ギリシャ時代から現代物理学の標準となっている理論に至るまでの理論の大転換を俯瞰(ふかん)し、夢の方程式がどうしたら現実のものとなるかを考える。著者の専門は超ひも理論だ。長い間美しい理論の有力候補として存在している。本書の語り口はまさに啓蒙(けいもう)書に定評がある著者らしい軽々としたもので物理学になじみのある方よりもむしろ普段は物理学と縁遠い生活をしている人がSFを楽しむかのように読み、宇宙や素粒子の世界に思いをはせるのにふさわしい。
 この方程式を追い求めるのは単にみてみたいから、だけではない。万物の理論は人類が抱える問いの一つに答えをもたらす可能性を秘めている。それは「なぜこの宇宙はあるのか」という問いだ。これは科学分野にとどまらない大きな問いなのである。
    ◇
Michio Kaku 米ニューヨーク市立大教授(理論物理学)。著書に『アインシュタインを超える』など。